「2017年から聖書の記述がコオロギも食べてよいと変更された。闇深い」
「コオロギ事業に6兆円」
こうしたデマがSNSで盛り上がり、次第に食用コオロギの安全や栄養、飼育効率への疑問が叫ばれ、現在進行形の牛乳廃棄やフードロスの問題と未来への備えである食用コオロギ開発の問題が混ざり合って語られるように。そうして反コオロギ派の声は「両論併記」の形で、広く浅く広まっていったというのが大まかな流れのようだ。
「その結果ネットにそれほど詳しくない人たちが煽られ、昆虫食事業者に怒りと不安の長電話をかけてきたり、ハガキを送りつけるという状況になっています」
昆虫食のニュースが増えたワケ
そもそも広く一般から注目されたのは、2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が昆虫食についての報告書を発表したのが出発点だ。これまで途上国の野生食材として2000種以上が数億人に食べられてきた昆虫について、あらためて先進国「も」真面目に未来の食糧として考えよう、と提案された。日本ではニッチな存在だった郷土食から、2015年からはSDGsの追い風もあり、需要にマッチしたキャッチーな食品となったのだ。
「それ以前の日本における昆虫食は、ゲテモノであり罰ゲーム扱いでしたが、メディアの扱いが数年かけて変化していき、『正しいもの』として取り上げ始めました。私はその間ずっと昆虫を味見し研究する側だったので、一般の人たちの視点を体感することは難しいのですが、ラジオで山田ルイ53世が昆虫食の『息苦しさ』に言及していたのを聞き、その内容には共感を覚えました」
かつてはゲテモノ、今はサステナブル?
文化放送のポッドキャストの「髭男爵 ルネッサンスラジオ」で2021年8月23日に配信された回である。かつてはTV番組などで虫を食べると「気持ち悪い! 無理無理!」とリアクションするのが普通だったが、それが次第にできなくなった。次は嫌がる前ぶりを経て口にしてハッとなり「意外とおいしい」となる演出が求められるように。
今は「罰ゲームじゃないからあまり嫌がらないで」と指示が入る。すると単純に口にあわなくても、褒めなくてはならない。しかも、変わっていこうとする流れはありつつも、結局今までと同じ「珍しいものを食べさせてみようとするコーナー」であることは変わらない。ざっくりこんな内容である。
「放送のとおり、ゲテモノに対する嫌悪リアクションが普通だった時代から、このほんの10年で『実はいいもの』という扱いが正しいような空気になってきた。そこに生じる、食の価値観を他人のペースで決められることの孤独感や、居心地の悪さ。それを多くの人が今感じていることが、コオロギ騒動が広まった理由のひとつではないかと思っています」