1ページ目から読む
3/3ページ目

 確かに一部の反コオロギには、「虫が嫌い」という感情に加え、環境意識の高いリベラル層への反感も含まれていそうである。

昆虫食が日常でも、誤解や不安はある

 さらに佐伯氏は虫が肉や豆よりずっとメジャーな食べ物とされているラオスであっても、食用経験のない虫を食べることに対して、拒否される場面に出くわしているという。

ラオスの市場で売られる昆虫(写真:佐伯氏提供)

「都市部を含むラオス全体の調査では96.8%が昆虫を食べた経験があり、半数が月1回以上食べている。私の活動地の農村では7割以上の世帯が週1回以上、旬の昆虫を採って食べてます。ところがそのような土地であっても、食用習慣のない昆虫を味見すると、日本のように嫌悪リアクションが発生します。シロアリは、大型種は食べられるが小型種はアレルギーになると信じられていたり。

ADVERTISEMENT

 そして私もまた、彼らの食文化に不安を覚える瞬間が度々あります。村でのおもてなしとして、アヒルの血のサラダや乳酸発酵させた生の豚肉、生の淡水魚のあえものなどが彼らの食文化として振る舞われます。その時私は感染症のリスクが頭をよぎりながら受け止め、その夜にお腹を下し、そして半年に一度駆虫薬を飲むのです。

 彼らが食べることを強要したわけではないけれど、食べたほうが盛り上がると圧力を感じたという私の主観も、また事実。もちろん断る選択肢も自由もあった。だから、強要されてはいないがいずれ食べさせられるのではという不安は、共感できる部分もあります」

次世代へ伝える態度を考える

 今はコオロギ食へ批判が集まっているが、これまでも昆虫食そのものを拒否する声は多かった。佐伯氏は「昆虫食を受け入れたくない人」と、どう接してきたのか。

「2017年に大阪の小学校教師向けにセミナーをやった際、『昆虫を食べたいと相談してくる子供が増えている』と聞きました。昆虫を知りたいが、味は図鑑に書いてない。だったら自ら食べてみたいと考えるようです。そうした相談は私のもとにもきますし、昆虫食の専門店に家族で相談に来る姿も目にしています。そうした時どうするか?

 ひと昔前は『汚い』『自分で衛生的に管理できない』『そもそも虫を食べたいと思うなんてどうかしている』と突き放すことができたのですが、現在は食用昆虫の研究がすすみ、文化的な昆虫食も見直されつつあり、食べるなと言える理由が一気に減ってしまいました。さらに食品として売られている現状では、なかなかNOとは言いにくい。

 そうした状況は親子間の話、昆虫食の話に留まらず、受け入れがたいものと長期的に、どう向き合っていくかという話でもあります。自分自身の好き嫌いを一旦おいて、都合のいい情報に飛びついて全否定するのではなく、保護者の視点で次世代の見慣れない興味関心を学ぶ態度は、私も心がけていることです」

(参考文献)
FAO報告書

ラオスの昆虫食調査 2015