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子牛のレバーでミイラを作る

 ――著書『ネアンデルタール人は私たちと交配した』(小社刊)によれば、ミイラのDNAを読み取る前の試みとして、子牛のレバー(肝臓)を買ってきて、そのミイラを作ってみたとか。この時、他の臓器ではなく肝臓を選んだのはなぜですか。

『ネアンデルタール人は私たちと交配した』 文藝春秋刊

 生物のDNAは、死後、急速に分解されてしまうだろうと思われていました。なので、まずはミイラにした後でもDNAが保たれているかどうかを見たかったのです。古代エジプトの墓では、肝臓はミイラ本体とは別に壺に入れて保管されていることが多い。だから、試す価値のある臓器だと思いました。子牛のレバーは手に入れやすかったというのもありますが。

 その結果、肝臓をオーヴンで熱して乾燥させ、ミイラのような状態にした後でもDNAが残っていることが確認できた。これに勇気づけられ、実際に古代エジプト人のミイラでもDNA解読を試みることにしました。

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 人のDNAらしき配列が出てきて反響を呼んだのですが、後に、それはミイラのものではなかったことが判明しました。私か博物館の学芸員、それとも考古学者か……。そのミイラに触れたことのある現代人の誰かのDNAの配列だったのです。

 ――失敗の原因は。

 古代の生物の組織に残っているDNAはごくわずかです。組織1グラムあたりに含まれる量を比較すると、古代のDNAは現代のそれの1万分の1から1000万分の1しかありません。扱うDNAがこれだけ少ないと、実験室の化学物質や空気中のチリによっても影響を受けやすい。その上、短い断片に分解され、化学的にも変性しています。また、現代人のものだけでなく、骨に付着した細菌などの微生物のDNAも混じっています。

 私たちは何年もかけて、汚染を回避する工夫を重ねました。漂白剤で拭き清め、天井の紫外線ランプで殺菌した専用の「クリーンルーム」を作りました。入室者を限定するなど厳しいルールも設けて、他のDNAの混入を徹底的に排除しました。

 試行錯誤の末に、短い断片を抽出して何百倍にも増やし、解析できることがわかりました。当初はマンモスなど絶滅した動物のDNAを解析しましたが、やはり知りたいのは古代人のDNAでした。

 挑戦を始めて15年ほど経ってからでしょうか。多くの技術的な問題を乗り越え、ついにネアンデルタール人のDNA解析を始めました。最初に解読したのは、上腕骨から抽出したDNAでした。1856年にドイツのネアンデル谷で見つかり、基準標本にもなったサンプルです。