きょう2月9日は、コラムニストの堀井憲一郎の誕生日である。1958(昭和33)年生まれで、ちょうど還暦を迎えたことになる。

 出身は京都。早稲田大学在学中には漫画研究会に所属、このころより出版業界で活動を始める。1980年代には、『週刊漫画アクション』や『テレビブロス』などの雑誌で、さまざまなことを調査してレポートするコラムを執筆し、のち1993(平成5)年に単行本『ホリイの調査』(双葉社)としてまとめられた。その内容は、観客が少ないことで知られた川崎球場で、試合中に実際にその数をかぞえてみたのをはじめ、大使館や政党など各方面に電話しては用意した質問をぶつけ、その反応の違いを確かめたり、あるいは、テレビに出てくる食事シーンや外国人などを徹底的に数えてみたりと、面白主義的な色合いが濃い。

 1995年から『週刊文春』で連載開始された「ホリイのずんずん調査」は、このコンセプトを発展させたものだが、しだいに社会学的な視点も交え、時代の変化をとらえた調査が増えていく。そこではたとえば、クリスマスが恋人たちのイベントになったのは1983年と、ごく最近のことにすぎないことなどがあきらかにされた。堀井はこの発見を軸に、のち2006年には『若者殺しの時代』を上梓し、以後も『いつだって大変な時代』『やさしさをまとった殲滅の時代』(以上、いずれも講談社現代新書)などの著作で、若者や社会の変容を真正面から見据え、“軟派”から“硬派”への転向を思わせた。

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©文藝春秋

『若者殺しの時代』で堀井は、若者が閉塞状況から脱却するための手段として伝統文化を身につけることを提唱した。堀井自身、高校時代には落語研究会に所属し、近年は落語に関する著作も多い。還暦をすぎて、こうした伝統志向がどのような展開を見せるのか、気になるところだ。

 なお、「ホリイのずんずん調査」は2011年に連載が終わり、13年にはその傑作選として『ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎』(文藝春秋)が刊行されている。そこでとりあげられたなかには「坂本龍馬は『維新の最重要人物』ではないという当たり前の事実」というテーマもあった(初出は2010年)。昨年には、歴史教科書から坂本龍馬が消えるかもしれないという報道があっただけに、その目のつけどころに驚かされる。