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伊藤コーチから飛び出した“田口絶賛の言葉”

 21年シーズンのある日、たまたま伊藤コーチとゆっくり話をする機会があった。久々に古巣に復帰して数カ月が経過していた。「今年のヤクルト投手陣はどうですか?」と水を向けると、彼は「田口がね……」と真っ先に切り出した。

「田口がね、かなりいいですよ……」

 続く言葉を待った。

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「……田口はね、かなり器用な投手です。新しい球種に挑戦してみても、すぐにそれなりに自分のモノにすることができるんです。ジャイアンツ時代に投げていなかったボールもすぐに覚えて、実際に試合で投げたりもしているし。それまで投げていなかったボールを見せられて、ジャイアンツ打線もかなり面食らっていたはず。度胸もいいし、明るいし、ピッチャーらしい性格もいいし、田口はかなり期待できると思いますよ」

 これまで、伊藤には何度も話を聞いてきたけれど、ここまで絶賛の言葉が並ぶのは珍しかった。ヤクルトファンとしてかなり嬉しかったことをハッキリと覚えている。同時に、かつて東京ドームで目の当たりにした「いいヤツっぷり」を思い出し、ますます田口に対する好感度も上がった。そして実際に、ヤクルト移籍後の田口は伊藤コーチの言葉通りの活躍を見せている。21年、22年とチームがセ・リーグ連覇を実現できたのは、田口の存在がかなり大きかった。

 その田口が、今シーズンからクローザーを務めることになった。昨年オフ、守護神であるスコット・マクガフがチームを去った。チームにとって大打撃であることは間違いなかったが、髙津臣吾監督は「候補は何人もいる。キャンプ、オープン戦を通じてフラットな目で見極めていきたい」と口にしていた。

自身のYouTubeで髙津監督を前に守護神就任を直訴

 開幕前、自身のYouTubeチャンネルにおいて、田口は髙津監督をゲストに招いて、「新クローザー就任」の直訴を行っている。そのメンタルの強さ、そして強烈な自意識の表れは、プロ野球選手にとって不可欠なものだろう。この動画を見たとき、ふと「今年のクローザーは田口になるのでは?」という予感を覚えた。

 こうして迎えた23年ペナントレース。髙津監督が新たなクローザーに指名したのは、やはり田口だった。開幕から10試合を終えて、チームは7勝2敗1分とスタートダッシュに成功した。新クローザーである田口は、この間に5試合に登板し4セーブ、1ホールドを記録。堂々たるピッチングを披露している。

クローザー問題は解決か?

 ペナントレースはまだ始まったばかりではあるけれど、開幕前に懸念されていた「クローザー問題」については、解決の糸口はすでに見えたといっていいのではないか? かつて、伊藤コーチが絶賛したスライダーはますます威力を増しているように見える。ピッチングの際に雄叫びを上げる闘争心もいい。昨年の交流戦で見せた「田口の20球」に象徴されるように、ピンチにも動じない勝負度胸も最高だ。適材適所を旨としていた野村克也監督の教えを強く意識している髙津監督が選んだ新クローザーに間違いはないのだ。

 まだまだ浮かれるのは早いことは、十分に承知している。それでも、神宮のブルペンに田口が登場した瞬間、スタンドから見守る僕のテンションは一気に上がる。今シーズンは、昨年までよりもさらに、「田口を見たい」という思いが強くなっている。そして、ライターとしては「ぜひじっくりとインタビューをさせてもらいたい」とも思っている。すでに、田口の魅力に完全に魅了されているのが、自分でもよくわかる。さぁ、今日も彼の雄姿を見に行こう。頑張れ、田口! その左腕が、今夜も、そして今年も僕らに夢を見させてくれるのだ――。

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