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性虐待は被害者の親も知っている“周知の事実”

 アザー記者はさまざまな元少年たちに取材を重ねるうち、性虐待疑惑を当の少年たちだけでなく親たちも知った上でジャニーズ事務所に子どもたちを送り込んでいるという証言を得る。確実に名声が約束されるのであれば、性行為さえも厭わないという元ジャニーズJr.の証言も拾う。被害者の側にも“枕営業”の存在を率直に認める人間がいたのだ。

 アザー記者が取材した別の元ジャニーズJr.の淳也氏の証言も「グルーミング」の影響をうかがわせるものだった。1980年に13歳でジャニーズに入った淳也氏。デビューすることはなく、6年間ジュニアとして事務所に所属した。 

淳也氏 (かつて合宿所があったビルを指して)ここです。

 ジャニーさんはそういう一つのクセをもった方であることは確かです。

 子どもたちに対して、「必要以上のかわいがり方」をしたのも確かです。

 

記者 それはどういうこと?

 

淳也氏 やっぱり身体をなで回される。いじられる。いわゆる男の子の“大事なところ”をグリグリされる(手を握るそぶり)みたいな(笑)。

 

記者 少年たちは喜多川氏の行動を理解したのでしょうか? 根本的に悪いことであるとか?

 

淳也氏 基本的には小中学生で未経験な子たちが多かったので、初体験(の相手)はジャニーさんだったというのは今でも笑い話で言うぐらいで。

 

記者 自分のことを侵害されたとは考えないのですか?

 

淳也氏 僕はそこまでやられていないんで。被害にも何も遭っていない。ただ、マッサージしてもらったレベルの延長……。本当にファミリーな。

 

記者 少年たちの親は知っていた?

 

淳也氏 いや全然……親は知っている事実ですから。けど、ジャニーズ事務所に入れたい。“周知の事実”なんですよ。ジャニーさんがホモセクシュアルだ、少年愛だ、知っているんですけど、それをノーとはしない。

 

記者 一線を越える行為に及んだら、それは犯罪では?

 

淳也氏 本当にジャニーさんが犯罪者であり、犯罪的な行為を行っていたと言ったら、当然、支援も受けられなかっただろうし、受けられなかっただろうと思うし。

アザー記者のインタビューに答える淳也氏 「J-POPの捕食者 ~秘められたスキャンダル」(BBC World News)より

どんな芸術家も「性暴力」「性虐待」は正当化することはできない

 子どもたちがジャニー氏の“性の餌食”になっていたと証言しながら、それを性虐待、性暴力だったとはけっして認めようとしない淳也氏。アザー記者は「彼自身も理解しきれていないのでしょう」と断定し、彼は「加害者に敬意の念」を抱いていると「グルーミング」の影響を指摘している。

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(アザー記者の独白)ジャニー喜多川氏の性的虐待は日本社会では公然の秘密であり、またそれを取り巻く沈黙もまた恐ろしいものです。

 たとえ「すばらしい人」や「すぐれた芸術家」でも、「性暴力」「性虐待」は正当化することはできない。むしろ優越的な立場を利用した卑劣な行為として厳しく断罪されるべきだというのが#MeToo運動以降の国際社会の共有認識だろう。

 子どもたちをめぐる性暴力をめぐっても、「グルーミング」という考え方が広がった現在、その手口を共有して社会全体で警鐘を鳴らすことがメディアを始め大人たちに求められている。無防備な子どもたちの人権をいかにそうした狡猾な暴力や虐待から守るのか。それは現在では社会全体の責務だといっていい。

 BBCのドキュメンタリーでは、故ジャニー喜多川氏について街頭で人々にインタビューしている。ジャニー氏のことを「神だ!」と崇める若者も登場する。また「(性虐待の噂は)聞いたことがあるが、ジャニー喜多川氏が死去した今は触れたくない」と見て見ぬふりをするような中年女性も登場する。

 日本人の多くがジャニー氏の行為を悪いことだとわかっていながら、けっして正義を実現せず、責任を追及しようとしない社会。そんな日本社会にアザー記者が苛立った表情を見せる場面がたびたび出てくる。