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完全試合より、チームの勝利、村上の初勝利のために

 続投させれば3巡目に入った巨人打線につかまるだけでなく、試合自体を落としてしまうリスクも少なからずある。これがチームの勝利、そして村上にプロ初勝利を付けるための最善策。1対0というスコアも継投にいたった理由の1つで「佐々木朗希なら投げさせとった。村上じゃ3対0じゃないと投げさせられない(笑い)」と独特の言い回しで振り返った。しかし、8回にマウンドに上がった2番手の石井大智が、先頭の岡本和真に初球を捉えられ同点ソロを被弾。村上の初星はその手からこぼれ落ち、試合も振り出しに戻った。それでも、悪夢のような展開で流れを失ったかに思われたが、村上の無念を思うようにナインが奮起。リリーフ陣が勝ち越しは許さず、延長10回に1死三塁から近本光司の決勝打が飛び出し、最後は守護神の湯浅京己が締めた。

4月12日、巨人に勝利し喜ぶ岡田彰布監督と村上頌樹 ©時事通信社

 村上の降板に迷いはなかったと明かした岡田監督だったが、実はその直前のテレビインタビューでは「完全試合いけたんかなぁっていうね。それは残ってますね。ずっと片隅にね」と口にしている。矛盾するようなコメントには限界も感じつつ、きょうの村上の出来なら……の思いもにじむ。そんな狭間に揺れながらタクトを振っていた。それでも、チームは勝ちきった。前夜は1対7で大敗し、連敗すれば今季初のカード負け越し。継投が裏目に出て元気のない打線も相変わらず……と重たい敗戦になるところを一丸で白星に変えて見せた。

「(勝ちきったのは)やっぱり大きいよな。大きい、大きい。それはもう全然大きいよ」。繰り返したフレーズからもいかに「大きい勝利」だったかが伝わってくる。そして、殊勲の村上も「チームが負けてないので、そこが良かった。本当にチームが勝てば良かった」と殊勝なコメント。痛恨の被弾を食らった先輩の石井にはベンチで「次どうせ自分が迷惑かけるので」と声をかけたという。

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 優勝するチームにはよく「あの試合が……」と言われるターニングポイントが存在する。監督や様々な選手の感情が交錯したこの「4・12」がペナントレースにどんな意味を持つのか。答え合わせはまだ先になるが、村上、石井という伸び盛りの若手2人をさらに高みへ押し上げる糧になったことは間違いない。番記者の囲み取材の終盤、岡田監督は自ら切り出した。「勝ちは誰になったん? 今日は岩崎か? チームの勝ちは村上でええやろさ。当然やん、そんなん当たり前やん」。勝負に徹する「ボス」から最後に少しだけ温かいものがこぼれていた。

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