1ページ目から読む
2/2ページ目

逆境を乗り越えて…約1000日ぶりの勝ち星

 2022年8月11日、種市選手が740日ぶりに一軍マウンドに立った日。ちょうど私も現地で観戦していたのですが、その日は種市選手のユニフォームを着たファンの方が多く、久しぶりの一軍復帰に、みんなが「おかえり、この日がくるのを待っていたよ」と思っていたはずです。

2022年8月11日、種市選手が登板した試合を観戦した時の様子 ©奥山かずさ

 試合後、本人は、結果を出せず反省して「次に生かしたい」と言っていましたが、やはり一軍で投げることは彼にとって大きかったでしょうし、マウンドを降りる姿を見守るファンの眼差しは落胆ではなく、来シーズン以降の彼に向ける期待でいっぱいだったと思います。

 そして、今シーズン。4月9日楽天戦、種市選手に約1000日ぶりに勝ち星がつきました。

ADVERTISEMENT

 3年……本当に長かった。手術前よりも確実にストレートの伸びが良くなっていたし、落ちるボールも素晴らしく、非常に内容が良かった試合でした。ここまで復活するのには、相当な努力があったはずです。

 自分の思い通りにいかず、心がポッキリと折れるような時……逆境に陥る瞬間は誰しもあるかと思います。そういう状況ですぐに切り替えることは難しく、視野が狭くなり、何もかも上手くいかないような錯覚から、自暴自棄になることもあるでしょう。

 彼の場合もきっと、思うように動かせない身体に対するもどかしさ、自分を追い詰める焦りなど、本人にしか分からない辛さや葛藤がたくさんあったのだと思います。

 でも、その経験を乗り越えた人は必ず強くなり、何倍もパワーアップして帰ってくるのです。挫けそうになった時に踏ん張ることができる強い信念があれば、逆境はピンチや絶望ではなく、チャンスに変わるのです。

 あ、2023年のマリーンズもスローガンで「今日をチャンスに変える。」と言っていますね。ピンチになってもチャンスに変えるので、「ファンの皆さんは慌てず騒がずに」ってことかな。大丈夫です、吉井監督。ファンはどんなに負けが続いてピンチでも、揺るがない、強靭なメンタルに躾けられています!(笑)

 話は逸れましたが……とにかく長い間、復帰まで地道に努力して我慢して、満を持して一軍マウンドに上がった種市選手は、いつもより大きく見えてカッコよかったです。

 手術やリハビリ期間は、彼にとってパワーアップするための必要な準備期間だったでしょう。この期間が自分の成長に繋がると信じていれば逆境は乗り越えられ、その先に大きな喜びがあるということを、種市選手が示してくれました。

 その姿に勇気をもらったファンも多いと思います。

 種市選手は、インタビューなどを見ていると本当に真面目で、謙虚で、年齢の割には落ち着いている印象があります。自己分析もしっかりとされていて、その冷静さの中に熱い向上心、内なる炎を感じます。

 真摯に野球と向き合う姿をファンは知っているから、種市選手を信じることができたのでしょう。

 そして、その姿は井口さん、吉井監督、コーチ陣やスタッフの皆さんにも伝わっているからこそ、育成選手にせず信じて成長を見守ってくれたのではないでしょうか。

 これからロッテを、いや球界を代表するピッチャーになってくれるはずなので、最多勝、奪三振、なんなら朗希選手とエース争いする姿も見たいなぁ……と欲は尽きないのですが、まずは一歩ずつ。3年間我慢していたものを放出して、納得のいくシーズンにしてほしいです。

 種市選手、辛い日々を耐えてここまで来てくれて、本当にありがとう。良い時も悪い時も応援します。ロッテファンとして、姉の笛友として!

 種市選手もそうですが、マリーンズには思うようなプレーが出来ず悔しさを抱える若手がいっぱいいると思うので、その悔しい気持ちを思う存分爆発させるようなシーズンにしてほしいです。もうその兆しは見えていますね。千葉ロッテマリーンズの新時代、楽しみがいっぱいです。

自宅でパ・リーグTV観戦の様子 ©奥山かずさ

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2023」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/62015 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。