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開幕ダッシュに失敗した“高齢ジャイアンツ” 暗闇から這い上がる“中田翔”という希望

文春野球コラム ペナントレース2023

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再起の輝きを放つ男

 抜群の実績と裏腹にファイターズからジャイアンツに移籍した当初の中田選手は、暗闇の中にいました。腰の怪我による不調、自身の不祥事もあり移籍の会見が謝罪会見を兼務。その年の成績は73試合の出場に終わり、打率.177の本塁打7本。

 前年には打点王を獲得していたものの、プレーでも素行でもまさにガクッと評価が下がってしまっていた1年。凡打するたびに、ネット上では辛辣な言葉が飛び交う四面楚歌だった印象です。

 しかし、レギュラー確約とは程遠い立場で臨んだ翌年。不調ならすぐに交代、2軍降格も経験しながら最終的には4番を任されシーズンを全うし、24本の本塁打と.269の打率を残して、Bクラスに沈んだチームで抜群の存在感を示しました。

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中田翔 ©時事通信社

 苦しい時期を乗り越えた中田選手の歩み。今不振や怪我にあえぐ中田選手と世代の近いスター選手たちは、近くでその姿を見ていたと思うのです。

 一度「ガクッと急下降」を経験した選手の復活は、想像を絶する難しさがつきまとうと思われます。

 一般社会でも同じ厳しさがあるでしょう。若い時代、登り調子の時代にはバンバン背中を押してくれた周囲が、一転して懐疑的な視線を向けてくる。若い世代や、自分の存在の陰に隠れていたライバルたちからの突き上げは脅威以外の何物でもありません。

「ガクッと急下降」から上向くことなく引退するレジェンドも、幾度となく目にしてきました。名前がコールされるだけで大歓声を浴び圧倒的な成績と存在感を放っていた選手が、いつしか凡打のたびにため息を浴び、ネット上で辛辣な言葉を投げかけられる。引退を表明してからは再びかつての大歓声が戻ってきて、引退試合では球場に詰めかけた多くの人が涙を流す。

 プロ野球を支えるファンの織りなす、ジェットコースターのような気流にさらされる宿命を持つスター選手たち。

 今日現在、大逆風に立つジャイアンツのベテランスター選手たちもここ数年、中田選手が乗っていたジェットコースターを思えば、もう1度輝きを取り戻してくれる可能性は大いにあると思うのです。

 手を替え品を替え役割を替え変身した姿か。若き日の勢いを取り戻した姿か。芸能界では2度目のブレイクでかつての姿を超えるスターも数多くいます。

険しさの向こう側

 中田選手が長年使用している登場曲『My HERO』にこんな歌詞があります。

 ~ずっとお前に助けられた分 俺らが助ける番だね~

 今は調子が上がらないベテランたちが、こんな風に奮起する姿をファンとしては期待せずにはいられません。

 そして歌詞はこう続きます。

 ~豪快な夢を見せてくれ エールを送るよ My HEROへ~

 かつて何度も夢を見せてくれたベテランスターたちの2023年の厳しい舟出を、今度は俺たちファンが盛り立ててバンバン背中を押していこうじゃないか。

 中田選手が起こした復活劇の再現が幾度となく繰り返されるようなシーズンになることを信じ、今日からまたジャイアンツを応援していこうではありませんか。

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