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私は“タイガースファン”なのか? そんな疑問に答えをくれた原口文仁選手の一言

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/04/26
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「タイガースファンですか?」

 この問いに対してスムーズに口が開かなくなった。もちろん、ジャイアンツファンになったわけでも、スワローズファンになったわけでもない。ただ、タイガースの“ファン”であるかどうかと聞かれると「?」が浮かぶのだ。数年前までは食い気味で「ファンです」と答えていたにも関わらず……。

 そもそも“ファン”の定義とはなんだろう。広辞苑で検索すると【スポーツ・演劇・映画・音楽などで、ある分野・団体・個人をひいきにする人】とある。日本マーケティング学会にて甲南大学マネジメント創造学部の青木慶准教授が発表した“「ファン」の定義に関する考察”では、ファンとは【持続的にブランドに関与する意思を持つ顧客】と定義している。

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 確かに、私はタイガースをひいき目にみているし、持続的に関与する意思を持っている。もちろんAREしてほしいと思っているし、負けるより勝った方が嬉しい。ただ、グッズを購入したり、ユニホームを着て球場に観戦に行ったりすることはない(ユニホーム未着用ではしょっちゅう行く)。となると、甲子園球場のライトスタンドで刺繍のワッペンをつけたユニホームに身を包んで声援を送るタイガースファン(ほんもの)の皆さんと同じように「ファンです」というのは、おこがましくあり、決して同じではないと思うのだ。

学校内で優勝Tシャツを着用する女子高生だった私

 2003年~2005年は、私の青春の3年間。高校1年生だった2003年、高校3年生だった2005年はタイガースの優勝Tシャツを学校内で着用していた。女子校での毎日の会話はアイドルでもプリクラでもスイーツでもない。「昨日の藤本かっこよすぎた!」「今岡めっちゃ打つやん!」(当時は“ファン”だったので呼び捨て失礼します)。KANEMOTO 6のユニホームも着ていたし、IMAOKA 7のマフラータオルも持っていた。この時は間違いなく“ファン”である。

 2015年シーズンからリポーターとして、阪神タイガースを仕事にすることができた。初めて目の前でみた縦じまのユニホームは「思ったより生地が分厚いんだなぁ」とか、テレビでは小柄に映る選手も「こんなに大きいんだなぁ」と感じる程度で、興奮することもなかった。仕事は仕事である。

 そうなると、だんだん“ファン”としてタイガースを応援するという気持ちはなくなっていったように思う。むしろ、取材を通じて様々な想いや苦悩を知ると、選手もいち社会人であり、そのプロ野球選手という仕事が成功するように応援するようになっていった。

 もちろん成績が伴うに越したことはないが、数字に現れなくともその選手にとっていい内容であればそれに喜びを感じるようになった(ですので、最近あった青柳投手への誹謗中傷なんかは本当に許せない)。それはタイガースの選手だけではなく、高校球児の頃から取材していた選手が他球団に入団すれば同じような心境で試合を見つめるようになった。そうなるともはや“タイガースファン”とはいいがたい。

 そのような感情が加速したのは、私自身がピラティストレーナーとしてタイガースに関わらせてもらうようになってからだ。そもそも、ピラティスの資格を取得しようと思ったのも、取材を通じて143試合戦う選手たちがいかに怪我に悩まされているかを知ったことがきっかけだった。怪我の内容によっては、プロ野球生活が短命で終わってしまうこともある。そうなった場合、選手は職を失い、家族も困る。ずっと応援してきたファンも友達も寂しさを覚える。ならば、傷害を予防したり改善できたりすると選手寿命も延び、身体の不安も軽減して野球に取り組めるのではないかと考えた。

 私の人生は野球のおかげで楽しいものになっており、その野球界の一助になりたいとピラティスの資格を取得した。ただ、当時は野球界にピラティスは浸透しておらず、選手には「何そのデザート?」と言われる状態。研究分野においても、腰痛患者に対するピラティスの効果はエビデンスがあったが、野球×ピラティスという研究はまだなされておらず、それならば自分で研究しようと早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程に入学した。

 研究テーマは「野球選手の腰痛に対するピラティスの効果」。早稲田大学野球部に協力いただき、ピラティスの介入研究を行った。その結果、3カ月間の介入で腰痛の身体所見は消滅し、腰痛の発生因子となっている身体機能は改善を示した。

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