7回パーフェクトの村上を交代 岡田監督も想定外の快投劇

 この夜、岡田彰布監督は確かに「非情」と「温情」の狭間にいた。4月12日、ジャイアンツとタイガースの今季初めてとなる伝統の一戦は、第2戦を迎えていた。球場が異様な雰囲気となったのは、1点優勢だった8回表。タイガースの攻撃で1死から9番・投手のところで「代打・原口」が告げられると、多くの虎党が陣取る左翼スタンドを中心にどよめきが起こった。無理もなかった。交代となった先発の村上頌樹は7回まで打者21人をパーフェクトに封じていた。あと6個のアウトで球団史上初となる完全試合の快挙が迫る。敵地に膨らむ大きな期待は失望となって声に出ていた。

「いや、全然悩まんかった。それは悩まんかった。おーん」。試合後の番記者による囲み取材で継投への迷いを問われると、指揮官は間髪入れずに否定した。村上はまだ3年目の若手。昨年まで一軍での登板は1年目に登板した2試合のみと経験は浅い。今季も春季キャンプからローテーションを争いながらも、中継ぎでシーズンイン。開幕2戦目に投げた秋山拓巳が5回5失点で二軍降格となったことで空いたスポットに収まった形だった。

 先発タイプとはいえ、開幕後は4月1日に中継ぎで1イニングを投げたのみと二軍での調整登板なども挟んでいない。戦前から岡田監督は「5回投げてくれたら十分よ」と語っており、この日は村上とロングリリーフも可能な1年目の左腕・富田蓮でゲームメイクするプランを想定。「あんなピッチングするとは思わなかったから」と村上のキャリア最高とも言える快投が、ある意味で監督の計算を狂わせたのだった。

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 それでも、背番号41からすればそんな継投プランは知ったことではない。球速、球威ともに昨年からグレードアップした直球に、精度の向上した変化球。昨年までウエスタン・リーグでタイトルを総なめにしてきた“二軍の帝王”は、この登板を殻を破るきっかけにするつもりだった。そんな決意が1球、1球に込められていた。ただ、序盤はジャイアンツ打線を圧倒していた直球の球威が中盤に入ってやや低下していたことも事実。球数も84球と100球に迫ってきており、百戦錬磨の岡田監督は冷静に戦況と状態を見極めた。実際、7回1死で迎えた左打者の丸佳浩、梶谷隆幸に合わせてブルペンではこのイニングの始めから左投手を準備させてもいた。もうこの時点で監督は村上に合格点を与えると同時に、継投での完全試合を描き始めていた。「後ろ(中継ぎ)で、3人で完全試合という方をね、優先したんや」。