業界再編の前兆か
宇宙航空研究開発機構(JAXA、山川宏理事長)と三菱重工業(泉澤清次社長)などが開発した大型ロケット「H3」初号機の打ち上げが失敗に終わった。
第二段エンジンの着火が確認できず、機体の破壊指令を出した。当初の予定から打ち上げが2年遅れた末の失敗。2022年10月の小型ロケット「イプシロン」6号機に続いて2連敗となる。日本の技術力に疑問符がつき、宇宙政策の抜本的な日程の見直しは避けられそうもない。
今回の「H3」ロケット失敗は、三菱重工がスペースジェットから撤退したのと同じ理由によるものだ。「開発に時間がかかっているうちに、時代遅れになってしまった」(軍事アナリスト)。
たとえば打ち上げの費用対効果。「H3」は打ち上げコストを抑え、打ち上げ費用自体は50億円とH2Aの半分だった。しかし、ロケットが運べる貨物の質量(運搬能力)「ペイロード」(低軌道)は「H3」が4トンなのに対し、米国のスペースX社(イーロン・マスクCEO)の「ファルコン9」は22.8トン、「ファルコン・ヘビー」は63.8トンだ。
「商用利用の競争力の目安となる1キロ当たりの打ち上げのコストはH3が125万円。『ファルコン9』は33万5000円、『ファルコン・ヘビー』は32万円。経済性を比較すると、H3の方が4倍近く高い」(前出のアナリスト)
また「H3」は打ち上げたロケットを回収しない使い捨て型だが、海外では「ファルコン9」が実現した「逆噴射を活用してロケットの一部を回収し、再利用する」再利用型の考え方が広まっている。
三菱重工は、将来の看板事業に掲げる航空・防衛・宇宙分野で失敗がつづき、前途は厳しい。国内の官需に依存する企業体質となっており、原発でも次世代軽水炉を開発するが、これも国の政策に大きな影響を受ける。
三菱グループにおける三菱重工に対する評価は厳しさを増すばかりだ。
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「丸の内コンフィデンシャル」の全文は、「文藝春秋」2023年5月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
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