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「死んだ父がいる」窓に映った自分に驚き“美容沼”に目覚め…スキンケア1日目からアラフィフ男性の肌に起きた“変化”

『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』より #2

2023/04/30

 帰宅後、買ったばかりの商品をさっそく開けて製品を眺める。期待で心が弾んでいるのを感じる。きっとすごく効くはずだ。高校の頃、輸入盤屋で買ってきたCDを早く聴きたくて、急いで帰って袋を開けたときの感覚を思い出した。容器に書かれた説明を読む。アスコルビン酸、ビタミンC誘導体、グリチルリチン酸ジカリウム。何が言いたいのかはあいかわらずわからないが、おそらく「効きますよ」とアピールしたいのだろう。

 風呂上がりに化粧水をつけ、乳液をつけ、美容液を塗ってみた。どれをどの順番でつけるといったルールはあるのだろうか。よくわからないので順番は考えず適当に使ってみる。化粧水は少しだけ甘い香りがして、洗顔でつっぱった肌が落ち着く感覚があった。その後に乳液を手に取って、顔全体に広げる。

 あごのまわりなど、ひげ剃りで肌が荒れやすい場所に塗ると、化粧水とのコンビネーションが功を奏したのか、顔全体を保護してくれる優しいバリアが張られたような気がした。化粧水と乳液は、どちらか一方より、両方使った方が効果が増すようである。

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 佐々木さんに教えてもらったメラノCCは、チューブに入ったセメダインみたいな液で、小学校の頃に作ったガンダムのプラモデルを連想させた。顔につけると、ほんのりレモンの香りがする。これをシミの部分に塗っていったが、途中で「もしかしたら他の部分にも効くかもしれない」と思い始め、最終的には顔全体に夢中で塗りたくった。顔に栄養が沁み込んでいくような感覚がある。日照りで農作物の取れない土地にようやく降った、恵みの雨のようだった。

 たくさんのスキンケア製品の重ね塗りでテカテカした顔で布団に入り、眠った翌朝。いつものように起きて無意識に顔を洗った私は、自分の肌がもちもちと柔らかく、ふっくらとした感触になっていることに驚いた。これはいったい何だ。肌がこんな状態になった経験がない。自分の頰とは思えなくて、つい何度も触ってしまう。

 かつて恋人の頰に触れたとき、なんでこんなに柔らかいんだろうと不思議に思ったものだが、その理由はきっと「日常的に手入れしていたから」であり、自分の頰だってケアをすれば同じようになるのかもしれない。私は、女性の頰は自動的に柔らかくなるものだと考えていた。

 自分の肌がこんな風に変化するものなのか? あまりにも明確な変化が初日から起こってしまい、興奮状態で鏡を見た。昨日と変わらない自分が映ったが、私はその向こう側に明るい未来の可能性を見ていた。

 これを続けていったら、私はきっと変わる。映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)のブラッド・ピットみたいにどんどん若返っていって、最後は赤ちゃんになってしまうかもしれないと思った。もっとスキンケアのことを知ろう、私はそう決意したのだった。

「死んだ父がいる」窓に映った自分に驚き“美容沼”に目覚め…スキンケア1日目からアラフィフ男性の肌に起きた“変化”

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