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「死んだ父がいる」窓に映った自分に驚き“美容沼”に目覚め…スキンケア1日目からアラフィフ男性の肌に起きた“変化”

『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』より #2

2023/04/30
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 ここからの巻き返しは可能なのか。私の顔面は肌トラブルの複合型テーマパークといった様相を呈しており、手の施しようがないように見えた。どこから治していけばいいのか? 私はふたたびノートを取り出し、現在抱える問題点を列記していった。

 鼻を中心に黒々と目立つ毛穴

 頰、鼻などの赤らんだ皮膚

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 目の下の不健康そうなたるみ

 目尻、ひたいに刻まれたシワ

 深く力強いほうれい線

 目のまわり、まぶた、ひたいに散在するシミ

 ひげ剃りによる、あご周辺の肌荒れ

 この調子で、リストはどこまでも続いていきそうだった。なかでも、目のまわりやひたいのシミが気になってしかたがない。これをどうにかできないものか。自分の顔にこれほどシミがあるなんて、ほんの30分前まで知らなかった。私はその衝撃を受け止めきれずにいた。

身近な人に訊いてみよう

 ひとまず誰かにスキンケアの相談をしてみたい。そう考えた私は、友人である佐々木さんに話題を振ってみた。佐々木さんはヤクルトスワローズを応援する野球ファンで、いま20代半ば、元気いっぱいの女性だ。中年男性がいきなりスキンケアの質問などしていいものかよくわからなかったが、訊いてみるとごく普通に教えてくれた。

「ちょっと、スキンケアのこと教えてほしいんですけども。佐々木さん、普段どんなスキンケア用品を使ってますか」

「スキンケアですか。えーっとですね、基本は安いやつです。たまにちょっといいものを買うくらいで。そんなに詳しくはないです」

「どういう製品を使ってます?」

「好きなのはdプロの化粧水ですかね~。資生堂は間違いないんで」

 もちろん初めて聞く商品名だ。スマホに「ディープロ」と入れて検索してみる。資生堂の「dプログラム」という商品だった。敏感肌向けと説明があるが、私は自分が敏感肌かどうかすら知らない。化粧水が約4000円。高い。一度買って、どのくらい持つのだろうか。毎月買い足すとなると、4000円はそう気軽に出せる値段ではない。ホームページには「ゆらぎがちな肌に」と書いてあるが、いまひとつぴんとこなかった。肌がゆらぐって何だろうか。

「ちょっと高いんですけど、dプロはオススメです。やっぱり値段がするのっていいモノが多いんですよね」と佐々木さんは言った。

「なるほど。値段が高いのってそれなりに理由があるんですね。スキンケア、何から始めればいいのかわからなくて」

「最初は手がたく保湿じゃないですか。まずは化粧水と乳液をつけて、乾燥を防ぐっていう、そこは外せないですね」

「保湿からスタートですね。それとあの、シミってどうやったら取れるんですか」と私は切り出した。昨晩の衝撃から、私はまだ立ち直っていなかったのだ。

「シミですか……。私、あんまり気にしたことないから詳しくはないんですけど、よく名前を聞くのはメラノCCっていう美容液ですかね。どこでも売ってるから手に入りやすいですし、値段もそんなに高くなかったと思いますよ」

 私は「メラノシーシー」とメモ帳に記録した。「伊藤さん、スキンケア興味あるんですか」と佐々木さんは言った。