“貴様は二言目には会長が山に使っていくら儲けても「ザルに水だ」と言っていたのも、俺の耳にはよく入っている”
と書かれたものもあった。山というのは、この遊園地のことだろう。社長は、会長が造ったこの遊園地のせいで会社の経営が傾いたと考えているようだ。最初は社長が原因で会社が潰れたと思っていたが、社長か会長か、どちらに原因があるのか分からなくなってきた。
数十枚の手紙を読み終え、ある事実に気づいた。所々に赤字で誤字を修正している箇所があった。そう、これは手紙の下書きなのだ。一度下書きをして、文面や誤字のチェックをしてから清書し、それを社長に送っていたようだ。
“貴様を千回叩き殺して”などの激しい文章を広告の裏に下書きし、校正してから便箋に清書している姿を想像すると、ちょっと可笑しく思える。
“社長との話”というタイトルが書き込まれたカセットテープが……
一方的に相手を罵る数十枚の手紙を1時間以上かけて全て読み終え、暗澹たる気持ちになったところで、とても気になる物が出てきた。それは、カセットテープだ。通常のカセットテープが2本と、小さいサイズのマイクロカセットテープが2本。マイクロカセットテープの1本には“社長との話”というタイトルも書き込まれていた。これは気になりすぎるし、どうしても聞きたい。
探索を終えて帰宅した私は、早速ある作業に取りかかった。そして翌週、もう一度あの廃墟を訪ねた。前回と違うのは、テープレコーダーを持っていることだ。作業というのは、カセットテープとマイクロカセットテープ、それぞれのポータブルレコーダーをフリマサイトなどで手に入れることだった。映画撮影の最終日に、何とか間に合った。
テープを一時的に持ち帰り、再び戻しに来るという手段もあったが、私としては一時的であっても廃墟から物品を持ち出したくなかった。廃墟は常に変化していく。肝試しの若者によって落書きされたり、自然に朽ちていったり、所有者によって解体されたりもする。私はあくまでも観察者でありたいので、自分の手で廃墟に変化を加えたくなかった。