1970年代、日本の少女漫画界に、竹宮惠子先生、萩尾望都先生、山岸凉子先生をはじめとする才能溢れる女性漫画家たちが一斉に現れ、彼女たちは「花の二十四年組」と呼ばれました。二十四年組のひとりである竹宮先生がいちはやく取り組んだテーマが、少年同士の性愛です。
竹宮先生をはじめ二十四年組の女性漫画家たちが描く少年同士の恋愛は、少女たちの熱狂的な支持を受け、これらは「少年愛」や「耽美」と呼ばれ、少女漫画の定番テーマとして確立していきました。78年には女性のための耽美専門誌「Comic Jun」(3号から「JUNE」に改題)も創刊されています。
同時代に、二十四年組の作品を愛好するアマチュアの人々が、男性同士の恋愛を描いた作品を同人誌というかたちで発表するようになりました。後にプロの少女漫画家になる波津彬子先生の周辺では当時、そんな作品を「ヤマなし・オチなし・意味なし」の頭文字をとって「やおい」とおどけて評していました。これが次第に広まり、男性同士の恋愛を描いた同人作品は「やおい」と呼ばれるようになります。
80年代半ばを過ぎると、やおいに転機が訪れます。当時、テレビアニメが放送され国民的人気を誇っていた少年漫画『キャプテン翼』を題材とし、男性キャラ同士の恋愛やセックスを描く二次創作が、10代の女性の間で全国的なブームになったのです。
世界最大規模の同人誌即売会であるコミックマーケット(通称コミケ)も、80年代前半の来場者数は1万〜3万人程度でしたが、『キャプテン翼』二次創作がブームになると女性たちが殺到し、10万人、20万人と規模が拡大していきました。この頃には「やおい」はオリジナル作品を意味せず、二次創作の中でも男性キャラ同士の恋愛、セックスを描く作品を意味するようになりました。
人気のやおい作家の作品は飛ぶように売れ、出版社からスカウトを受けてプロの漫画家になる作家たちが現れました。彼女たちのオリジナル作品の掲載の場として、主に女性向けに男性同士の恋愛を描く商業誌の新創刊が相次ぎ、BLというジャンルが確立されるようになったのです。
女性のための文化
やがてBLという言葉は、オリジナル作品も二次創作も含めて、男性同士の恋愛やセックスを描いた作品全般に使うことも増えてきたのですが、特筆すべきは、少年愛や耽美から、二次創作のやおい、現在のBLに至る流れの中で、作者のほとんどが女性で、読者の多くも女性であるという点です。