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《ビル・ゲイツが広大な農地を買い占める訳》…なぜグローバル企業は食と農にビジネスチャンスを見出したのか

《ビル・ゲイツが広大な農地を買い占める訳》…なぜグローバル企業は食と農にビジネスチャンスを見出したのか

堤未果✕内田樹対談♯1

2023/04/29

source : ライフスタイル出版

genre : ニュース, 社会, 経済

note

資本主義にとって理想的で最高の商品は…

 その通りですね。前に元職場の同僚と話していた時、もうモノは飽和状態で終わったけれど、これからの有望投資商品は、皆が奪い合うものだ、と言っていました。いのちに関わるものは、高い値札がつくからです。水も土壌も枯渇していきますから、今囲い込んで儲けようという発想。

 日本で一時、水道民営化の是非が話題になりましたが、企業運営になれば当然のこととして、その価値が数値でしか測られなくなるでしょう。だから災害大国の日本で水道のコンセッション方式をどうするか?という場合、「経済」ではなく「防災」と言う視点から議論しないといけない話なんですよね。

 

内田 もう一つ、資本主義の延命の手段は戦争です。兵器というのはきわめて特異な商品です。他の兵器を破壊することが兵器の存在理由だからです。兵器を作れば作るほど、多くの兵器が破壊される。だから、市場が膨満するということがない。「ニーズが満たされる」ということは、兵器については起こりません。

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 そんな商品は他には存在しません。他の携帯を破壊する携帯とか、他の自動車を破壊する自動車なんかありません。ふつうの商品は、需要を喚起するためには消費者の欲望に点火しなければならない。兵器にはそんな手間は要りません。いきなり壊せばいい。それに軍事テクノロジーは日進月歩で進化していますから、最新鋭兵器がわずか数年で陳腐化して、時代遅れになる。買っても買っても「これで足りた」ということが起こらない。

 兵器は資本主義にとって理想の商品、究極の商品です。売上が落ちたら戦争を始めればいい。中強度の戦争がどこかでいつも行われていることが兵器産業にとっての理想なんです。

戦争は不況の時の公共事業

 まさにその理想の状態が、ここ数年続いていましたね。ロシアのウクライナ侵攻について、現状どちらが優勢かという報道が今も続いていますが、あの戦争で笑いが止まらなかった唯一の勝者は軍需産業とPR会社でした。アメリカ、EU、そして日本から、国民の税金が湯水のように注がれて、武器メーカー、民間戦争請負会社、広告代理店などが、空前の利益を上げています。

 さらに、ウクライナに武器を送った多くの国で、支持率が低迷していた首相や大統領にとっては、再び世論の支持をV字回復させる政治的効果も抜群でした。アメリカでは「戦争は不況の時の公共事業」という言葉があるんですが、歴史を見ると世界中どこでもこのパターンは続いていますよね。グローバル化とテクノロジーが進んだ分、そこに乗っかる業界が昔よりかなり増えましたけど。

 延命されるのは「資本主義」ではなく、エンドレスな「強欲」ではないでしょうか。

サル化する世界 (文春文庫 う 19-27)

内田 樹

文藝春秋

2023年2月7日 発売

 

《ビル・ゲイツが広大な農地を買い占める訳》…なぜグローバル企業は食と農にビジネスチャンスを見出したのか

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