多くの家庭が保育施設に子どもを預ける日本に対し、家族で育てる割合の大きいアメリカ。なんと5歳以下の子どもがおり、母親が働いている家庭の場合、デイケア・センター(保育園)を利用しているのは21.1%にすぎないという。
市場原理に委ねられているアメリカの保育の現状とは? フェリス女学院大学助教授である関口洋平氏の新刊『「イクメン」を疑え!』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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アメリカにおける保育の現状
子どもが生まれたあと、両親がともに仕事に復帰したければ、どのような選択肢があるだろうか? もしあなたが日本に住んでいるのであれば、まずは役所に行って認可保育所が利用できるか調べるのがよいだろう。運悪くあなたの自治体に待機児童が多ければ、多少高額になるかもしれないが、認可外保育所の利用も考えられる(図1)。
2歳以上になれば幼稚園も選択肢に入ってくる。両親に預けるという人もいるかもしれないし、ベビーホテルやファミリーサポート、ベビーシッターといった選択肢も近年は増えてきているが、いわゆる「保育園」、「幼稚園」以外の施設を利用する人は日本では比較的少数であると言ってよいだろう。
ところが、アメリカの事情は大きく異なる。2011年の統計を見てみよう(図2)。
5歳以下の子どもがおり、母親が働いている家庭においてデイケア・センター(保育園)を利用しているのは21.1%にすぎない。母親が働いている間に父親が子どもの世話をしている家庭は29.3%。祖父母に子どもを預けている家庭が31.7%あり、きょうだいや親戚に預けている家庭も10.4%ある。
幼稚園(プリスクール)を利用している家庭が8.1%、ヘッド・スタートという貧困者向けのプログラムを利用している家庭が5.8%。さらにファミリー・デイケアと呼ばれる非認可の家庭的小規模保育(通常は子ども4人から6人くらいまで)を利用しているのが7.6%、そして自宅の内外でベビーシッターやナニー(住み込みのベビーシッター)などの保育者に育児を委ねているのが10.1%。そして26.7%の家庭がこれらの選択肢を組み合わせている。
日米の状況を比較すると、アメリカのほうが保育に関する選択肢が多いのは一目瞭然である。しかし、保育の多様性はアメリカの家庭に恩恵を与えているのだろうか? 答えはイエス・アンド・ノーである。なぜなら、保育に関する「選択」は、すべての家庭に等しく与えられているわけではないからだ。
住んでいる地域や子どもの年齢によっても話は変わってくるが、比較的裕福な家庭は、デイケア・センターを使用することができるかもしれない。日本の保育園と違いアメリカのデイケア・センターの多くは民営で、保育料の全米平均はなんと年額で1万336ドル。多くの州では、州立大学の学費よりも高額である。また、3歳未満の子どもを受け入れている施設は少ないし、営利企業により運営されているデイケア・センターには質が低いものも多い。