2010年以降に出版された「イクメン」本の多くは、「育児は仕事の役に立つ」という論調だという。中には「育休を取った人は出世している」と主張する書籍もあるが、果たして本当なのだろうか? フェリス女学院大学助教授である関口洋平氏がこうした書籍に抱いた違和感を、新刊『「イクメン」を疑え!』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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ビジネス書としての「イクメン」本
「子育ての経験が仕事力を高める!」、「育児は21世紀のビジネススキル」、「残業大国ニッポンの働き方は、『共働き世帯』が変えていく」、「仕事ができる男の、子育てのコツを網羅!」。これらはすべて、2010年以降に出版された「イクメン」を礼賛する本の帯に書かれたキャッチコピーである。ある新書のタイトルは、ずばり『育児は仕事の役に立つ』だ。
もう少し具体的に検討してみよう。たとえば『イクメンで行こう!』の冒頭には、「筆者は実体験から、男性が育児にチャレンジすると、ビジネススキルも大きく伸びると確信している。まず、時間制約があるため、業務効率は格段に向上する。また、同時並行で物事を処理する能力やリスク管理能力も高まる。そして、最大のメリットは、言葉が通じない赤ん坊や地域で出会うさまざまなタイプの人たちとやりとりする中でコミュニケーション力が培われる」とある。
この本が推奨しているのは、育児の経験を「ビジネススキル」に還元することだ。職場だけではなく、家庭でも「ビジネススキル」を伸ばすことができる――そのような発想の転換が人的資本という概念の核心にあることは、すでに指摘したとおりである。「タイム・マネジメント」、「段取り力」、「言語化」能力……。ビジネス書の読者にとってお馴染みの言葉がこの本の至る所に散りばめられているのは、決して偶然ではない。
『育児は仕事の役に立つ』(2017年)、『男性の育休』(2020年)といった本においても、同様の主張は顕著である。「プロジェクトとしての育児に夫婦で取り組むことで、リーダーシップ能力の向上が期待できる」、「育児の効率化が、仕事の最適化につながる」、「エクセルを使って家事や育児を『見える化』するとよい」、「育休をとる男性が増え、働き方が変われば、時間当たりの生産性も向上する」等々。これらの本は、「育児書」であるのと同時に、「ビジネス書」でもあるのだ。