2016年から2021年まで、6年連続で人口増加率全国トップを維持し続けた「千葉県流山市」。かつては数多ある東京のベッドタウンのひとつにすぎなかったが、近年は「保育の楽園」として首都圏の子育て世代から注目を集めている。流山市ではいったい、どんな取り組みを推し進めているのか——。
ここでは、流山市在住30年の経済ジャーナリスト・大西康之氏が流山市の魅力と秘密を綴った『流山がすごい』(新潮社)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の2回目/1回目から続く)
◆◆◆
「田舎は嫌」だったはずが……
「保育の楽園」に集まってきたのはどんな人たちか。例えばこんな人だ。
手塚純子は1983年に大阪府で生まれた。神戸大学でアメリカンフットボール部のマネージャーとして組織マネジメントに目覚め、人材系の仕事がしたくてリクルートに入社。リクルートでは営業、人事、経営企画などさまざまなポジションを経験した。
手塚は会社に近い東京都の目黒区に住んでいた。バリバリ働き、バリバリ遊ぶ。そんな手塚にぴったりで、大好きな街だった。やがて結婚することになり、子供を産む想定をし始めた。女性の先輩社員たちから聞く子育ての話は、恐ろしいものだった。
ある先輩は都内で保育園が見つからず、入園の条件をよくするため、計画的に離婚してシングルマザーになり、保育園が決まった後に同じ人と再婚した。別の同僚はオフィス内にある認可外の保育園を活用し、子供が病気の時はベビーシッターを雇い、月に約20万円を支払っていた。月給の半分だ。もはや何のために働いているのか分からない。
帰宅ラッシュの時間に見た思わぬ光景
リクルートにはネットで住宅情報を提供する『SUUMO(スーモ)』という事業がある。そこに所属する同僚に聞いた。
「すぐに保育園に入れてドア・ツー・ドアで1時間以内に東京駅まで通える場所ってない?」
同僚が言った。
「うーん、今なら流山おおたかの森とか柏の葉キャンパスとか」
手塚は即答した。
「聞いたことないし、田舎は嫌」
都内の下町も見に行ったが、ラブホテルが林立していてダメだった。