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「母になるなら、流山市。」のポスターモデルになった女性

 手塚より一足早く流山で活動していたのが尾崎えり子。尾崎は2010年、第1子の妊娠を機に新宿区から流山市に転入してきた。リクルートのOBが立ち上げた東京の経営コンサルティング会社でバリバリ働いていた尾崎は、第2子を出産した後「母になるなら、流山市。」のポスターのモデルになる。

 井崎の肝煎りでできた市のマーケティング課と交流ができ、「子ども子育て会議委員」を委嘱されると行政との関わりを深めていった。やがて尾崎は会社を辞め、流山で女性活用のコンサルティングや教育事業を手がけるベンチャー企業の「新閃力(しんせんりょく)」を立ち上げた。

 尾崎は新閃力の事業の1つとして「Trist(トリスト)」というシェアサテライトオフィスの開設を検討していた。尾崎自身は子供を産んだ後、通勤時間が妨げとなって、いったん仕事と子育ての両立を諦めた。その時の経験から「自宅のそばにシェアオフィスがあって、そこが会社と繋がっていれば通勤時間のせいで仕事を諦める必要はなくなる」と考えていた。第1子の育休中だった手塚は「そのモデルにならないか」と誘われたことをきっかけにTristの立ち上げに深く関わることになった。

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 単にシェアオフィスを作るだけでなく、マイクロソフトを巻き込んで最先端のテレワーク教育プログラムをママたちに無料で提供し、オンラインで働く人材を求める都心の企業に彼女たちを売り込んだ。リモートワークが当たり前になるコロナ禍よりはるかに前の話である。

 バイタリティの塊のような尾崎を見て手塚は思った。

「ここ(流山市)はこんな特殊な人が賞賛される場所なんだ」

Sim Cityみたいだ

 手塚が働いていたリクルートも、人のやらないことをやる者が賞賛される会社だった。日本にはそんな場所はリクルート以外にない。そう思っていたが、自分が引っ越してきた街がまさにそうだった。

「ここに集まってくる人たちとは仲良くなれるかもしれない」

 手塚の中で妄想がむくむくと膨れ上がる。目の前に広がる雑木林や野原に、新しい街がどんどんできていく。そこに気の合う仲間が集まって「みんなで作っていこうぜ!」と新しいルールや仕組みを作っていく。

「Sim Cityみたいだ」