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 ある日の夕方、「見るだけ見ておこう」と思って流山おおたかの森に行った。そこで手塚は思わぬ光景を目にした。ちょうど帰宅ラッシュの時間。若いスーツ姿の男性たちが駅前の送迎保育ステーションで受け取った子供の手を引いて、ゾロゾロと街を歩いているのだ。

当たり前のようにパパたちが子供のお迎えに

「ニュータイプだわ!」

 男性の育児参加はもはや当たり前。だが出勤のついでに子供を保育園に連れて行く「送り」はあっても、決められた時間に仕事を切り上げて我が子を迎えに行く「お迎え」は妻の役割であることが多い。手塚が働いていたリクルートは「働き方改革」の先頭を走る会社である。それでも「お迎え」をやっている男性社員は稀だ。

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「部下のいる男性社員が、子供のお迎えがあるから、と仕事を切り上げるのはやっぱり難しいです。数が減ったとはいえ夜の付き合いもあったりするし」

 しかし流山おおたかの森で見たパパたちは、当たり前のようにそれをやっている。

「何なの、この街?」

 家に帰ると手塚はパソコンを開き、流山市のことを調べた。

流山おおたかの森駅前の景観 ©AFLO

特殊な人が賞賛される場所

「母になるなら、流山市。」

 こんなキャッチフレーズを掲げる流山市は、自分たちのような子育て世代に手厚い優遇政策を実施している。だが手塚は市が進めている数々の政策から「子育てがしやすい」以上のメッセージを受け取った。

「母になってもどうぞガンガン活躍してください、って言われてる気がしたんです」

「仕事ができる人間が多い」と評判のリクルートでは、新人社員の頃から「思い立ったらまず動け」と教えられる。創業期から伝わっている「圧倒的当事者意識」という社風だ。批評家にならず当事者になる。何事も「自分事」と受け止め、自分に何ができるかを考える。

 流山市に引っ越した手塚は、その1週間後、市長の井崎に会えるイベントに行き、すぐ挨拶できたことにも驚いた。社長に気軽に会える風通しの良い会社のようだ。

「ここで色々、活動したいです」

「活動大歓迎です」と井崎は言った。