Sim Cityはかつて世界中で大ヒットしたパソコンゲーム。都市計画を練り、発電所や浄水場や道路といったインフラを整えながら仮想の街を作る。
「流山市が会社で、私がその会社の人事部長だったら」
手塚の妄想は止まらない。
「とにかく、街中にいる、自分とは違う個性や経歴を持った面白い人を仲間にする。今は高学歴で大企業に就職しても出世より仕事と暮らしのバランスを重視する人がたくさんいる。暮らしにこだわる彼ら、彼女らにとって、自分の生き方と地域の課題解決は重ねられるはず。街の人事部長としてそんな人達を採用する」
大企業を巻き込んだ様々なプロジェクトを展開
手塚は第2子の育休中に会社を辞めて起業する。始めは市民団体の形で立ち上げた「WaCreation(ワ・クリエイション)」を2018年に株式会社に改めた。流山市は千葉県の自治体の中でも圧倒的に法人の数が少ない。市税も9割方が個人の収める住民税だ。
Tristの経験を経て手塚が考えたのは「東京や大阪にある大企業の仕事の一部を流山に持ってくるのではなく、地域の課題を解決する事業を大企業と組んで社会実験する会社を流山に登記してもらうこと」だった。大都市から法人税を引き寄せるのだ。
WaCreationが最初に始めたのは流山市でのコミュニティデザイン。流鉄流山駅前にあったタクシー会社の空き車庫を改装して、コミュニティー・スペース兼観光案内所を作り「まちをみんなでつくる」machimin(マチミン)と名付けた。
machiminは流山の名産である流山キッコーマンのみりんを活用して「みりんの魅力」を再発見するプロジェクトを始めた。そこからみりんを使ったお菓子が生まれ、machiminはそれを作るお菓子製造所兼喫茶店になった。市内の田んぼでの稲刈り体験とその後の空地を使った「プライベート公園」、ペットボトルや毛糸玉を使った「廃材アップサイクル」などを展開し、凸版印刷、NTT東日本などの大企業を巻き込んだ。手塚は言う。
「1つ1つは大きくなくていいんです。100万円の事業を100個起こせば1億円になります」