あるいは、ナニーを探すという手もある。ただし、これはデイケア・センターよりもさらに高額である場合が多い。または運が良ければ、企業内に設置された良質の保育所を利用することも可能かもしれない。
もちろん、すべての家庭にこのような選択肢が開かれているわけではない。デイケア・センターより安価なのは、ファミリー・デイケアである。ファミリー・デイケアはデイケア・センターと比べると比較的安価なサービスとして知られているが、これも最近は年額で平均7998ドルかかるというから、どんな家庭でも利用できるというわけではない。しかも、デイケア・センターと比べると保育者の資格などの規定が大幅に緩い(州によっては、ほとんどないに等しい場合もある)ため、保育の質も保証されているとは言い難い。
貧困層の保育はどうなっているのか?
貧困層の3歳から4歳の子どもはヘッド・スタートというプログラムにより無料で保育を受けられる可能性があるが、このプログラムの恩恵を受けられる家庭の数は極めて限定されている。保育バウチャー制度(自治体が発行する保育サービス購入補助券)などで貧困・中間層の家庭に保育費用を補助している州もあるが、これも包括的な援助と呼べるものではない。
要するに、アメリカにおいて保育は基本的に市場原理に委ねられている。「小さな政府」という新自由主義の理想をなぞるかのように、公的な支援は限定され、自己責任の原則がことあるごとに強調される。保育に関する選択肢が多いことは一見すると良いことであるように思えるかもしれないが、裕福でない家庭にとっては利用できる選択肢はかなり限定されている。また、質が担保されないまま選択肢ばかり多いため、良い選択ができるとは限らない。
祖父母やきょうだいといった親戚や父親による保育の割合が多いことは、このような背景のなかで理解されなくてはならない。新自由主義的な「小さな政府」のロジックが公的な保育制度の整備を阻んでいるからこそ、アメリカでは子育てにおいて親戚が重要な役割を果たすのである。