古い下町に店を構え、時には自ら厨房に立つラーメン屋の店主が暴力団員であることは、近所の人たちも知っていた。独自メニューが一推しの店は常連客もつかみ、それなりに繁盛していた。だが、店主はただの一組員ではなかった。開店から7年後、拳銃を口に突っ込まれて壮絶な最期を迎えると、誰が思っただろう。

 4月22日、神戸市長田区にあるラーメン店「龍の髭」の前に何台もの捜査車両と救急車が並んだ。昼の営業を控えた店内で、口の中から大量の血を流して倒れていたのは店主の余嶋学さん(57)。自ら厨房に立つだけでなく、インスタグラムからは数多のラーメン屋を食べ歩く研究熱心な様子も見て取れる「ラーメン屋の大将」だった。

ラーメン屋「龍の髭」はブルーシートで覆われ、物々しい雰囲気に ©共同通信

 牛テールでとったスープと、牛すじやホルモンを甘辛く煮込んだ地元のソウルフード「ぼっかけ」を売りにした20席ほどの小さな店。500円台からあるラーメンは脂っぽさが抑えられ、さっぱりと清んだ目玉のテールスープと細麺がよくマッチした味わいが人気でもあった。食べログの評価は「3.49」。海沿いに造船所や工場が林立し、労働者の街であり続けた下町風情が残る一帯の中で、常連や遠方からの客も来る店だった。

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「前科も1つや2つではありません」

 だが、「ただのラーメン店主ではありませんでした」と地元社会部記者は言う。「彼は、特定抗争指定暴力団である山口組の三次団体『湊興業』の組長です。警察にも登録されている現役で、前科も1つや2つではありません。2020年にも詐欺グループから詐欺収益の一部を受け取ったとして組織犯罪処罰法違反容疑で大阪府警に逮捕されています」

死亡した余嶋氏 本人インスタグラムより

 そんなラーメン店主にそぐわぬ人物を襲った事件は凄惨だった。午前11時頃、買い物から戻った60代の女性店員が店の床に倒れている余嶋組長を見つけた。口だけでなく、耳や鼻からも大量の血を流していたという。119番通報を受けてすぐに救急隊が駆けつけたが、既に意識不明。間もなく搬送先の病院で死亡が確認された。