兵庫県警の動きは鈍かった。殺人事件であれば真っ先にかけるはずの緊急配備を敷いたのは発生から3時間後。犯人はとっくに現場を離れていた頃だ。
「警察による殺人事件かどうかの判断はかなり遅れました。一見しただけでは遺体に目立った外傷が見つからず、当初は病死や自殺の可能性もあるとみたせいです。近隣の飲食店主らも店にいたにもかかわらず銃声を聞いていませんでした。ただ、搬送後に口の中を頭に向かって拳銃で撃たれていたことが分かった一方、現場には使われた拳銃がない。その時点で殺人だと気づき、慌てて捜査本部を設置しています。弾は貫通せずに頭の中に残っていました。口の中に銃口を突っ込まれて撃たれるという、非常に残忍な殺し方です」(同前)
余嶋組長が傘下に入る山口組は、8年前の分裂以来、神戸山口組や、そこから分派した絆會と抗争を繰り返してきた。2020年には特定抗争指定暴力団に指定され、その構図は現在も変わらない。その中で湊興業は神戸で唯一、名古屋市に本部を置く指定暴力団「弘道会」の直系団体であり続けてきた。弘道会は日本最大の勢力を誇る山口組の司忍(篠田建市)6代目組長が設立し、高山清司若頭が総裁を務める2人の出身母体で、余嶋組長はその直参でもあった。弘道会が山口組に入る前から続く関係だ。
「もはやラーメン屋が本業とも言える状態だった」
ただ、警察幹部や暴力団関係者らは、今回の殺人が抗争の一環であるという見方には否定的だ。
「抗争自体はほぼ結論が出ている。山口組側によるここ数年の攻勢で、神戸山口組はボロボロ。中核だった二次団体・山健組が離脱してからほとんど壊滅寸前だ。一連の事件でも、相手を殺害にまで追いやってきたのは全て山口組側。今回の事件が神戸山口側による『返し(仕返し)』とは思えない」(警察関係者)
事件の背景は、全く別のところにあると話すのは元山口組関係者だ。
「ラーメン店の経営は暴力団にとっても人気のシノギ。とはいえ余嶋組長は自分でも店に立ち、自宅も店の上階にあった。もはやそっちが本業とも言える状態だった。抗争の中でそんなイチ組長を狙う理由はなく、むしろラーメン店主になった経緯にこそ事件の理由があるのでは」