メディアで紹介されるとき、“いま、もっともチケットが取れない講談師”という枕がつく神田松之丞。講談というジャンルを知らなくても、一度、ライブで松之丞の高座を聞けば、その魅力に取りつかれてしまう。 

 2017年は、国立演芸場で「芸歴十周年記念 まっちゃん祭☆秋三夜」を三夜連続で開催し、大当たりを取った。テレビでは「笑点」(日本テレビ系)の演芸コーナーに講談師として久々に登場し、「サンデージャポン」(TBS系)にも出演。ラジオではパーソナリティを務め、はたまた自伝本「絶滅危惧職、講談師を生きる」(新潮社)を出版。

 2018年に入ってからは客席に若者の姿も目立ち始めた。“講談界の新星”から次のステージへ。そんな松之丞に、これまでとこれからのビジョンを聞いた。

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©榎本麻美/文藝春秋

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――2017年2月にインタビューした時と比べ、本当に松之丞さんのチケットが取りづらくなりました。気を抜いていると即日完売になってしまう。

松之丞 おかげさまで、東京、大阪での独演会は完売になることが増えました。今年の11月4日には、キャパ1100席のよみうりホールで「芸歴11周年記念」という、なんとも中途半端な昼夜興行を打つんですが(笑)、おそらく、昼夜ともに完売になるでしょう。劇場を押さえるのは、博奕みたいなところもあるんですが、これまでのところ、いい形でいろいろなお客様に足を運んでいただいてます。

――メディアでも、名前を拝見することがずいぶんと増えました。

松之丞 去年は3カ月ごとに周りの評価が変わっていった感じがしました。メディアは常に新しい人材を求めているので、その流れに乗ったというか。講談であれば、来年は自分でこれくらいまでは行けるだろうという想像はつくんですが、メディアの露出は、自分の予想を上回る感じです。2年前、「サンデージャポン」に出演することが想像できたかといえば、それは無理ですから。あのころ「俺は2年後にサンジャポ出る!」と啖呵切ってたら、完全に頭がおかしいと思われる(笑)。

テレビ出演のプラスとマイナス

©橘蓮二

――見ましたよ、「サンジャポ」。喋り出す時に、高座の上みたくメガネを取ったのがやたらおかしかった(笑)。

松之丞 ああいうコメンテーターは向いてないですよ。映り方や、コメンテーターの中での立ち位置とか、基礎ルールが分かってないんですから。でも、最初が肝心ですから、挨拶だけはしっかりしようと思って、「ダレノガレ(明美)姉さんには、ちゃんと挨拶しとかなきゃいけないな」と思ってたら、ダレノガレさんの方から挨拶に来てくれました(笑)。ただ、真面目な話をすると、テレビに出演することには、プラスとマイナスの両面があると思ってるんです。

――プラスは、知名度ですか?

松之丞 そうです。動画にはいろいろな視聴形態が増えましたが、テレビに出演することで「メジャーの印」みたいなものが押されるんですよ。それは周りの評価を聞くと感じます。将来的には、地方での観客動員にプラスになる可能性はあるんじゃないでしょうか。それに、二ツ目でも爆笑問題さんが司会を務める『サンジャポ』に出演していいんだ、という旗印にもなるかな、と。ただし、テレビはリスクも背負わなきゃいけないです。

――リスク、ですか。

松之丞 たとえば政治の問題について、僕が迂闊なことを言ってしまうと、これまで築いてきたものがすべて崩れかねない。僕は、演芸の世界だけは思想的な右も左も関係なく、みんなが楽しめるユートピアだと思ってるんです。そこで僕に色がついちゃうと、みなさんが楽しめなくなってしまう。その点、ラジオはいいですよ。好きなこと喋れるんで(笑)。

――TBSラジオの「問わず語りの松之丞」(火~金 夜7時35分頃)ですね。毒舌、冴えてますねえ。私も、そして友人たちも次々と餌食にされてます(笑)。

松之丞 どうも、すみません(笑)。