いま、全国の温泉旅館は感染対策を施しながら、新たな「おもてなし」を模索している。その最前線に立ち続けているのが、各地の“女将”たちだ。

 長年温泉旅館を取材し、『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)などの著書でも知られる山崎まゆみ氏が、そんな女将たちの“とっておきの仕事術”を紹介する。

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「子供の頃、旅館の女将として働く母がキラキラして見えました。妹にじゃんけんで勝って家業を継いだんですよ」

 そう語るのは、若女将であることが嬉しくてたまらないという群馬県伊香保温泉「ホテル松本楼」の松本由起さん。

 日比谷の洋食店「松本楼」からのれん分けし、大正時代に開業した「西洋御料理 松本楼」がルーツ。1964年に旅館業を始め、現在は「洋風旅館ぴのん」も含め2軒の宿を経営している。美味しい洋食を出すのは歩んできた歴史ゆえだ。

群馬県伊香保温泉「ホテル松本楼」松本由起さん

社員研修に「マネジメントゲーム」

 由起さんが最も力を入れるのが社員研修で、成果は如実に表れている。全国15000軒の旅館の頂点を決める「旅館甲子園」で3大会連続ファイナリストに選出された。社員の働き方が話題になり、深刻な人手不足に悩む旅館業界で、昨年度の新卒採用には306名もが応募し、4名採用という買い手市場となった。

 6年前から社員研修に経営者感覚を養う「マネジメントゲーム」を取り入れている。40年以上前にソニーが開発し、主に製造業で使われてきたが、旅館で用いたのは珍しかった。モノポリーのようなボードを使い、自己資本から投資先を決め、利益を出していく実戦さながらのゲームだ。

「社員が会社経営を模擬体験できるので、コストカットとサービスの向上に繋がりました」