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マニュアルがそぐわないことも
室伏さんが旅館に戻った昭和63年当時は、客室総数53室の大型旅館として団体客を受け入れており、多忙なため雑駁なもてなししかできないことに胸を痛めていた。そこで、平成15年に別館を閉鎖し本館35室に絞り、宿泊単価を上げて高級路線に切り替え、手厚いもてなしができる環境にした。平成20年には、バリアフリールームの別邸も新設した。
どの旅館も、差異はあれど接遇マニュアルが確立されている。しかしバリアフリールームを必要とするお客には、画一化された対応がそぐわないことも多い。
ふと、トヨタ時代の先輩を思い出した。
「お客様のニーズを把握することが重要です。話を聞くだけでなく、お客様をよく見て、足が悪いお客様には高座椅子を直ぐにお出しするようにしています。
以前、咀嚼が難しいお客様が要望された刻み食を出した時に『細かすぎる』とご指摘頂きましたので、ご希望のサイズをお伺いするようにしていて、ナイフとフォークもお出しします。また大切なのは、出来ないことは出来ないと正直にお伝えして、お客様とコミュニケーションを図ることです」と室伏さん。
そんな中で、最も悩むのはアレルギーを持ったお客の食事だという。
予約が入ると、女将が電話でお客のアレルギーについて詳細をヒアリングする。
「アレルギーは非常に複雑で、卵のアレルギーでも生卵と半熟卵とでは違いがあります。海老アレルギーのある方は、海老を揚げた油もダメなのか、など正確に把握することはとても難しいのです」