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ジャニー喜多川氏の性加害を“なかったこと”にした博報堂の言い分 ジャニーズ事務所への配慮を公言

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 5月14日21時、ジャニーズ事務所が公式HPで動画を配信し、藤島ジュリー景子社長自らが「創業者ジャニー喜多川の性加害問題について、世の中を大きくお騒がせしておりますこと心よりお詫び申し上げます。何よりまず被害を訴えられている方々に対して深く、深くお詫び申し上げます」などと語った。

 ジャニー氏(享年87)の性加害については、1999年に「週刊文春」が14週にわたって報じ、キャンペーン開始直後の1999年11月、ジャニー氏とジャニーズ事務所は、小社・文藝春秋に対し名誉毀損の損害賠償を求めて提訴。2003年の東京高裁判決では、性加害が認定され、翌年、最高裁で確定した。しかし、多数の元ジャニーズ・ジュニアの証言によれば、これ以降も性加害は続いていた。判決後も性加害が続いてきた理由の一つにあると見られるのが、ジャニーズ事務所とビジネスで深くつながるメディアや広告代理店による性加害“黙殺”だ。そうした実例の一つが、日本を代表する大手広告代理店の博報堂の原稿削除問題である。本件を報じた「週刊文春」4月20日号の記事を公開する。(初出:週刊文春 2023年4月20日号 肩書きは公開時のまま)。

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「ジャニーズを優先してこっちをないがしろにして。誠実ではないですよね」

 

 そう憤るのは、批評家の矢野利裕氏である。

ジャニーズに関する著作もある矢野氏

 大手広告代理店・博報堂が発行している『広告』。

「博報堂の社員が編集に携わっています。その号の特集テーマに沿った、様々な筆者の論考・対談などが掲載される。2019年からは小野直紀氏が編集長を務めている」(博報堂社員)

 いま問題となっているのは、「文化」をテーマとした最新号(3月31日発売)。この号では、矢野氏と社会学者の田島悠来氏が「ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか」というテーマで対談している。この中で、矢野氏がジャニー喜多川氏のセクシャルハラスメントや、ジャニーズ事務所のメディアへの影響力について言及した発言が、博報堂の広報室長の判断で勝手に削除されていたのだ。

 この件が公になったのは、3月31日。矢野氏の「note」への投稿だった。矢野氏が語る。

「対談は去年12月1日にZoomでしました。編集長の小野氏も同席しました」

小野編集長(「monom」HPより)

「性犯罪」という言葉を「ハラスメント」に修正

 英BBCがジャニー氏の問題を取り上げた番組の取材も受けていた矢野氏。話の流れで、性加害についても触れることになった。

「『ジャニーズの文化は、ジャニー氏の自宅である合宿所での濃密な人間関係と共に培われた。ただそれが一方で性犯罪を生んだ』などと言いました。客観的な事実として語った。裁判で認定されたことも言った覚えがあります」(同前)

 編集部から届いた原稿では性犯罪という言葉はハラスメントに修正されたが、「編集部としてはそのラインなんだと割り切った」(同前)。矢野氏は原稿に手を入れて返送。そこではジャニーズが帝国と呼ばれるほど影響力を持つことを述べた上で、こう発言している。

〈囲い込み、独占するようなコントロールをマスメディアに対して影響力を持ってやってきて……。いまの時代はとくに、メディアの独占的なコントロールやハラスメントなどはその問題性を追及されるべきところだと思います〉

矢野氏のnoteで公開された消された文言

 矢野氏が驚いたのは、12月23日の編集部からのメールの内容だ。

「『弊社の確認により、修正が入る可能性があります。もし大きな修正となりましたらご連絡致します』などと書かれていました。この後にまだあるんだと」

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