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「あ、お兄さん警察じゃないですよね?」元彼のホストに貢いだ金額2000万円…20代で「立ちんぼホームレス」になった彼女の人生

『Z世代のネオホームレス』 #1

2023/05/20
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「立ちんぼです。あ、お兄さん警察じゃないですよね?」……夜の大久保公園で出会った、ピンクのロンTを来た20代女性。彼女はなぜ歌舞伎町で立ちんぼで食いつなぐ、ホームレスになったのか?

 ホームレスの実態に迫るYouTubeチャンネル「アットホームチャンネル」を運営する青柳貴哉さんによる初の著書『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む

元カレに貢いだ額は2000万円…マナミさんが歌舞伎町で「立ちんぼホームレス」になってしまった理由とは? 写真はイメージ ©getty

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立ちんぼのメッカ・大久保公園

 2021年9月、僕は高田馬場から新宿へ向けて自転車を漕いでいた。時間は19時頃で、夜の街を走り抜けると、自分の顔に当たる空気が秋の夜風のように清々しく感じられる。

 YouTubeで「アットホームチャンネル」の活動を始めてから1年半。この日も、高田馬場にある戸山公園でホームレスの人たちに取材をしていた僕は、ふと思った。

「そういえば歌舞伎町でインタビューしたことがないな」

 それまで僕が取材交渉をしていた場所は、ホームレスが集まる戸山公園、上野公園、代々木公園など、駅近くの路上がメイン。池袋駅や新宿駅の駅前の路上で寝起きしているホームレスに声をかけることは多かったが、歌舞伎町では取材したことがなかった。戸山公園の取材を終えたあとで陽は落ちていたが、僕は自転車で歌舞伎町まで足を延ばしてみることにしたのだ。

 住居表示でいうと高田馬場も歌舞伎町も新宿区にあり、JR山手線の駅なら新大久保駅を挟んで2つ隣。自転車を走らせた僕が歌舞伎町の奥へと入っていったのは19時30分を過ぎたあたりで、通りはすでに多くの人たちで賑わっている。小綺麗な身なりで足早に歩く出勤前のホストやキャバ嬢とすれ違い、必要以上に目線を合わせてくる黒人の客引きを笑顔でかわし、これからこの街に搾取されるであろうスーツ姿のサラリーマンの群れを眺める。つい先ほどまで僕が感じていた秋の夜風の清々しさは、歌舞伎町に入った途端に人々の欲望の渦に吸い込まれて消えてしまったようだった。

 ゆっくりとしたペースでペダルを踏みながら、僕はホームレスを探した。ホストクラブやラブホテルが立ち並ぶ区画を突っ切り、西武新宿駅方面に向かう途中、大久保公園のあたりを通りかかった。どこに行っても灯の多い歌舞伎町の中で、大久保公園の周りだけは時間通りの夜の暗がりに包まれていた。その暗がりの中、公園の輪郭に沿うような形で点々と女性が立っている。さらに、その女性たちを数メートル離れた場所から物色するように眺める男性が複数人。

 夜の大久保公園には異様な空気が漂っていた。このあたりは立ちんぼのメッカとして知られている。自転車を走らせていると、道に面した自動販売機の脇に力なく座り込んでいる女性が目に入った。

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