中嶋聡監督が就任して以来、オリックス・バファローズは「全員野球」を掲げ多くの栄冠を手にしてきた。吉田正尚、山本由伸を筆頭に多くのスター選手を輩出してきた近年のオリックスだが中嶋監督はインタビューなどで「今、期待している選手は?」と聞かれて特定の選手の名前を挙げるような凡将ではない。お得意の仏頂面で「全員です」と答えるのがお決まりだ。
プロ野球のペナントレースは過酷な長距離レース。高年俸のスター選手数人だけで戦い抜けるほど甘い世界ではない。全戦力を的確にフル活用できたチームだけが栄冠を手にできる。そのことを今のプロ野球界で誰よりもわかっているのが中嶋監督であり、だからこそオリックスは万年戦力不足でありながらパ・リーグ連覇を達成できたのだと思う。
そんな中嶋オリックスの中でいぶし銀ながら確かな輝きを放っている選手がいる。
外野のスーパーサブ・小田裕也だ。
イチロー以来のスターを予感させた2015年
1989年11月4日生まれの33歳。熊本県出身。九州学院高校、東洋大学、日本生命を経て2014年ドラフト8位でオリックスに入団。
小田裕也のデビューは鮮烈だった。ルーキーイヤーの2015年8月にプロ初出場を果たし31試合97打席で29安打。打率.326・2本塁打6打点6盗塁。当時の僕は「ついにオリックスにイチロー以来のスピードスターが現れた!」と思ったものだ。このルーキーイヤーから今に至るまで小田の武器として有名なのはもちろん守備と足だ。抜群の守備力と強肩。そしてセンス抜群の足。
プロ野球における「走力」とは単純な足の速さだけではなく「スタート、ベースランニング、スライディング、状況判断」を加えた「走塁力」を意味する。
オリックス野手陣にも俊足はたくさんいるが残念ながらこの走塁力に長けた選手はあまりいない。そのせいでライオンズ時代にはそこまで突出していると思わなかった森友哉の「ライオンズ伝統の走塁力」の凄さがオリックスでは目立ちすぎるくらいだ。だが走塁下手のオリックス野手陣の中で小田裕也の走塁力だけは別格だ。そして何より小田の走る姿はとても美しい。
それはそうなのだが本稿で僕が書きたいのは彼の守備と足の話ではない。小田裕也の「打撃」について書きたい。どうしても。
2016年以降、小田のバットから輝きが消えた
2015年、ルーキーイヤーの小田は打撃もピカイチだった。鋭くコンパクトなスイングで単打だけではなく長打も連発し長打率.461を誇った。さらに印象に残る一打を放つメンタルの強さも魅力だった。だからこそ僕は「イチローの再来」と感じたのだ。数年後には打率.300・10本50打点30盗塁を期待できる選手だと。
しかし翌年以降、小田のバットから輝きが消える。
2016年 78試合58打席でわずか7安打。打率.137・0本塁打3打点。
2017年 43試合20打席でわずか1安打。打率.059・0本塁打0打点。
2018年にはようやく本来の輝きを取り戻し90試合164打席で41安打。打率.287・2本塁打15打点。長打率も.378まで回復。ついにスピードスターがレギュラー獲得か!?と喜んだのも束の間、翌2019年はレギュラー格として82試合203打席を与えられるも37安打。打率.206・3本塁打21打点と振るわずレギュラーを盤石のものにはできなかった。