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CSで生まれた伝説の一打

 しかし小田に転機が訪れる。2021年、中嶋監督が正式就任すると小田は試合終盤の「ジョーカー」的存在として中嶋監督の戦略になくてはならないいぶし銀の輝きを放ち始める。自身最多の101試合に出場。だが出番は代走・守備固めが大半で与えられた打席はわずか18。年間1安打ではあった。そんな小田がこの2021年、一度だけ「バット」で強烈なインパクトを残す。11月12日の対ロッテ、CSファイナルステージ第3戦。2−3と1点ビハインドで迎えた9回裏無死一、二塁からの初球「サヨナラバスター」だ。今もオリックスファンの間で伝説として語り継がれる小田裕也の代名詞でもある。僕はあの日、京セラドームの内野2階席からあの瞬間を見届け、深夜まで店を開けてくれていた難波の串揚げ屋のカウンターで一人静かに祝杯をあげた。守備でも足でもなく小田の「バット」の底力を信じてきたファンの一人として感無量の夜だった。

 翌2022年、オリックス連覇&悲願の日本一のこの年も小田は「ナカジマジックの切り札」として72試合に出場。相変わらず代走・守備固めがメインだったが26打席5安打で打率.208・1本2打点とバットの方でも多少中嶋監督の信頼が増している気配があった。

小田裕也がバットで輝き続ける日が来るのを信じたい

 そして2023年。オリックスは例年にも増して野手に怪我人が続出。そんな緊急事態の中、小田の「バット」が再び脚光を浴びる時がやってきた。ここまでチームが50試合消化して小田は30試合43打席で14安打。打率.341・1本塁打7打点。二塁打も5本放ち長打率は.537(6月1日現在)。スタメンでの出場機会が増え、勝負強さと力強さを感じさせる打席での姿はまるでルーキーイヤーに戻ったかのようだ。個人的に小田がスタメンで活躍し規定打席に到達する姿を見てみたい気持ちは強い。その時、彼はどんな打撃成績を残すのだろう。だが茶野篤政が台頭し、杉本裕太郎・中川圭太がいるオリックス外野陣のレギュラー争いは熾烈だ。しかも中嶋監督的には試合終盤に「ジョーカー」小田裕也を手札として残しておきたいだろう。オリックスにはあれだけのランナーは他にいないのだから。でも、それでもいつか小田裕也のバットが一年間輝き続ける日が来るのを信じたい。

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 2015年8月5日。僕は千葉マリンスタジアムで初めて小田裕也の姿を見た。

 おそらく僕は、あの日からずっと小田裕也のバットに恋をしているのだ。

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