少年のような瞳が、藤崎台球場のロビーの奥から輝いた。両手を振りながら小走りでやってくる姿は、18歳の頃からまったく変わらない。しかし、何かが違う。違和感のようなものを感じた。

「だいぶ大きくなったでしょ。体重は変わっていませんが、細マッチョですよ。トレーニングを頑張って、筋肉量が増えました」

 広くなった肩幅の上で、ピュアな笑顔がはじけていた。不思議な感覚だ。

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 2017年、ドラフト2位でカープに入団した山口翔である。2019年にはプロ初勝利もマークしているが、昨オフに戦力外通告を受けた。今シーズンからは、故郷である熊本に戻り、火の国サラマンダーズでプレーしている。自己最速の153キロをマークしたとの情報もある。

山口翔投手 ©坂上俊次

野球人生を切り拓いてきた「モノマネ」

 彼の魅力は、野球のポテンシャルだけではない。どこまでも明るいキャラクターにもある。カープ時代、笑顔の輪の中心には、いつも山口の姿があった。チームメイトの投球フォームのモノマネをしては、周囲を爆笑させていた。

「今はね、アドゥワ(誠)さんの新しいフォームのマネができますね。少し前かがみの立ち姿とスリークォーター気味の腕の角度です。アドゥワさんに見せたいなぁ」

 この妖精のような屈託のなさは、熊本でも受け入れられているようだ。火の国サラマンダーズの神田康範代表は、その人気ぶりを語る。  

「人間的にも、大丈夫か?というくらいスレていません。ファンも大事にします。この前も、自分で母校の熊本工業高の関係者に呼びかけたり、メールフォームの転送もしてくれました」

 4月8日、火の国サラマンダーズはリーグ最多観客動員数となる3455人を集めた。神田代表は「3455人の10パーセントは、山口のファンです」と声を弾ませる。

山口投手と火の国サラマンダーズ神田康範代表 ©坂上俊次

 カープ時代にファン感謝デーでも披露した「野球モノマネ」は山口の野球人生を切り拓いてきた。「いろんな選手のモノマネをして、チームメイトに喜んでもらいましたが、それだけではないです。中学時代には、野村祐輔さん(カープ)のマネをしてマウンドに上がり、そのときはコントロールも良かったです。フォームがわからなくなったときは、様々なマネをやってみることがありました」。