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心の支えとなっていた遠藤淳志の存在

 2019年のプロ初勝利など、鮮烈なデビューを飾った山口だったが、2020~2022の3シーズンは本来の球威を欠き、一軍のマウンドに立つことができなかった。ファームでも、思うように球がいかず、苦しんでいた。

「人のマネはできるのに、自分の良いときの投げ方ができないのです。自分のコレというものがなくて、悪い方向にばかり考えていました」

 二軍での時間が長くなったが、「同級生」の存在がモチベーションになっていた。同じ2017年ドラフトでカープに入団した遠藤淳志である。デビューこそ山口より遅かったが、2020年には一軍で5勝をマーク。今年も、先発ローテーションの一角として期待されている。

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「気が合う同級生です。ノリも合うし、笑うツボも同じ。ちょっとした買い物も、一緒。スタバ行こうや! コンビニ行こうぜ! そんな感じでした。僕はグミを買うくらい、(遠藤)淳志はチョコを買っていましたね」

 そんな二人が、口論になったことがある。ルーキーイヤーのことである。

「1年目の仕事でクリーニングしたユニフォーム類を配る仕事があったのですが、どっちが持っていくかとか、そんなことで口論になりました。お互い、イライラしていたのでしょうね」

 二人は言葉を交わさなくなった。夕食会場でも、離れて座った。それぞれが、気まずい夜を過ごした。

 翌日の練習、二人はいつものようにキャッチボールをした。会話もあるはずもなく、気まずい空気が流れていた。しかし、心の中で、山口は呟いていた。

「やはり(遠藤)淳志は、いい球を投げるなぁ。ボールがキレイで力感のないフォームからボールがくる。凄いなぁ。教えてもらいたいなぁ」 

 気がつけば、キャッチボールを終えると、同時に頭を下げていた。

「ゴメン」

 それ以上は、必要なかった。

 それ以来、お互いは、心の支えであり続けた。妬みも嫉みもない。それぞれの刺激が、二人の活力につながった。

広島時代の山口翔 ©時事通信社

遠藤にも影響を与えた山口の戦力外通告

「カープは毎試合チェックしていますよ。この前は、ファームで淳志の足に打球が直撃したと聞いて、必死でネットを検索しましたもん。映像が見つかりましたが、淳志がとても痛そうで。大丈夫ですよね?」

 念のためだが、遠藤の足に問題はない。次なるチャンスに向けて、着実に技術を磨き続けている。山口の戦力外通告は、遠藤にも影響を与えた。

「結果が出ないと厳しい世界です。わかっているつもりでしたが、同級生がそうなると、自分にもあることだと感じるようになりました。でも、山口とは連絡をとっていますが、頑張っているようです。こっちも負けていられません」(遠藤)

 火の国サラマンダーズでフィジカルを鍛え、山口はスケールアップを果たしている。しかも、野球が楽しくて仕方がない様子だ。

「思い切り投げろ。体を鍛えろ。マウンドで暴れてこい。馬原孝浩監督にそう言われています。投げるなら相手を圧倒し、三者三振のイメージでやっていますよ」

 火の国サラマンダーズの神田代表も複雑な心境を吐露する。「ずっとこのチームにいて欲しいくらいです。でも、この1カ月で球速も6キロアップして、馬原監督の指導も含めて驚いています。彼の目標ですから、155キロを出してNPBに復帰して欲しいですね」。

 そこ抜けに明るくピュアな男も24歳になった。熊本と広島、離れていても二人三脚の歩みは止まらない。

 刺激を与え、元気を受けながら、厳しい勝負の世界に挑み続ける。

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