人知れず自身の危機を乗り越え、当たり前のようにチームの危機を救って見せた。球団最多タイ記録となる月間19勝を記録し、とにかく勝ちまくった“5月の虎”。2位ベイスターズに6ゲーム差を付けるなど疾走を加速させ交流戦に入った。

 快進撃の象徴は、一時は脅威の得点圏打率5割を記録した近本光司、5月だけで22打点を記録した佐藤輝明、投手でも、いまだ無双を続ける大竹耕太郎に、完全ブレークを果たした村上頌樹と挙げればキリがない。

 そんな中で大きく目立つことはないものの、ただひたすら腕を振り、愚直に“職務”を全うしている男が、31歳の岩崎優だ。2017年から本格的に中継ぎに転向して以来、昨季まで6年連続で40試合以上に登板してきた鉄腕。タイガースのブルペンには欠かせぬ存在で、プロ10年目を迎えた今季も主に7、8回を担う勝利の方程式の一角として開幕を迎えていた。

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岩崎優 ©時事通信社

2年連続の代役クローザーも「守護神は湯浅なので」

 昨年は不振のケラーに替わって4月上旬から9回を任されて球団左腕新記録を更新するシーズン28セーブ。ただ、今季も“任期継続”とならなかったのは昨年、大ブレークを果たした湯浅京己が岡田彰布監督から開幕守護神に指名されたからだ。若き豪腕は開幕戦で早速、プロ初セーブを記録するなど4月中旬の時点で7試合に登板して5セーブ、防御率0.00。文句の付けようがないパフォーマンスを示していた。

 だが、WBCでの疲労も蓄積していたのか4月16日に右前腕部の張りで出場選手登録を抹消。奇しくも2年連続で不在となった守護神の枠に背番号13が“代役”として収まることになったのだが、当の本人は強く首を振っていた。

「守護神じゃないです。守護神は湯浅なので。戻ってくるまでは自分が何試合か頑張ろうと。そういう気持ちです」。ファンや報道陣の間で“塩対応”が定着しているように決して多くを語ることはないが、その言葉には決意が十分なほどにじんでいる。「守護神」という大きな看板を出すことはせず、求められる仕事、期待される役割を淡々とこなしていく。

 ただ、内面では静かに燃えるものもあった。「“湯浅がいなくて負けた”と言われるのが一番嫌なので。そこはもう意地ですよね」。言葉に偽りはなく、後輩が戻ってくるまで非の打ちどころがないパフォーマンスを示した。湯浅が再登録されるまで8度あったセーブ機会をすべて成功。5月は登板した10試合すべて無失点と月間19勝の半分以上を締めくくっている。