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安心して享受できる色気

 またこの世代の好む「王子様」性の要件として、「男性性をあまり感じさせない」というのもあり、羽生選手はそこにもピタっと当てはまる。性的なものがタブーとされてきた時代の、そのしっぽに生きてきた我々は、ゴツゴツした骨格とかジョリジョリしたムダ毛とかギトギトした脂っぽさとか、ストレートにオスを感じさせるものを素直に愛でられない、そういう男女の違いを未だ上手に乗り越えられていないように思うのです。古くは城みちる、ひかる一平、そして氷川きよしと続き、羽生選手。オスが醸し出す攻撃的な色気とは対極の、羽生選手の自家発電的な色気なら、安心して享受できますから。私なんぞは「そ、そういう目で見てないです~」という謎のエクスキューズのために「理想の息子って感じ」とかすぐ言っちゃうんですけど。そもそも平野歩夢選手みたいな息子、羽生選手みたいな息子なんて、この世のどこ探したっていないことは自分が一番よくわかっているのにね~。

©JMPA

何とも言えない「大映ドラマ感」

 でも、なんだかんだ言って結局私が一番心をグサグサされるのはこれ。羽生選手が醸し出す、何とも言えない大映ドラマ感です。大映ドラマ……『少女に何が起こったか』、『ヤヌスの鏡』、『花嫁衣裳は誰が着る』、『プロゴルファー祈子』……荒唐無稽な世界観、大仰なセリフ回し、異常に痛めつけられる主人公、からの立ち上がる主人公、それを見守る松村雄基(or風見慎吾)……五輪直前のまさかのケガ、連覇はおろか出場さえも危ぶまれた中での完璧すぎるショートプログラム、そして世界中の主婦が家事の手を止めたと言われるあのフリーでの「堪え」。「この物語は"弓の弦を結ぶように凛とした人間になってほしい"とその名をつけられた少年が喘息克服のために始めたフィギュアスケートで……」あぁ来宮良子のナレーションが聴こえてくる。椎名恵も歌ってる。

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 金メダル確定の瞬間、胸を押さえながらカメラに向かって「(ありがとうございます)」と唇だけ動かした羽生選手見ました? あんなエアー"ありがとうございます"、『難破船』歌った後の明菜ちゃん以来見たことないですし、あそこまで鼻をくしゃっとさせる困り笑顔、『抱きしめたい』で浅野温子が岩城滉一にやるやつ以外見たことない。忘れかけていた王子様のトキメキと80年代のベタベタなキラメキをこの現代に鮮やかに蘇らせてくれる羽生選手って、間違いなく氷上の陰陽師……とあらためて痛感させられた男子フィギュアスケートでした。