女40代。ある程度人生経験を積み、そこそこの辛酸をなめ、まあまあ子どもも大きくなり、親は老い、徹夜が無理になり、確定申告は手付かずのまま。愉快よリ不愉快ばかりが目に入ってきてしょうがない今日この頃。だからでしょうか。この単調で重たい日常を忘れさせてくれる何かを求めてしまうのは。

 それは圧倒的なスター、いやスーパースターのオーラでした。平昌オリンピック、フィギュアスケート男子。なんと66年振り、オギャーと生まれた赤ちゃんがオーバー赤いちゃんちゃんこになるくらいまで達成されなかったオリンピック連覇という偉業を成し遂げたのは、氷上の陰陽師・羽生結弦選手、その人。飛ぶように軽やかに表彰台までやってきては、ハビエルとショーマを優しくハグ、踊るようにその頂きに飛び乗ると、主役の登場に盛りあがるBGMをシュパパと手で制する。まるでタモさんがアルタの客の拍手を捌くかのように……。羽生結弦という奇跡の生命体の前で、40代主婦である私は束の間現実を、家事を育児を介護を締め切りを、そして確定申告を忘れていました。

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やることなすこと女性ファンに突き刺さる

 なぜ我々は羽生結弦選手にこれほどまでに心をもっていかれるのか。心のみならず、総額100万円近くかかる観戦ツアーが盛況になるくらいのマネーまでもぶっこんでしまうのか。そもそもスーパースターとは、無意識にカメラを、観客の視線をとらえることができる人。それは裏返せば、常に見られている意識を絶やさないということであり、だから一般人がやったら赤面もののふるまいも、スーパースターであればそれは絵になり感動に変わるのだと思います。徹底してるがゆえに。羽生選手はやることなすこと面白いくらいに女性ファンの心に突き刺さる。フィギュアファンのマスである、女性、私のような現実と現実のせめぎ合いの中でもがいている40、50代の女の心にグサグサと。

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 そこには羽生選手の「王子様」性があるのです。まるで少女漫画から飛び出してきたような、現実感の無さったらありません。リンクの感触を確かめながら、ジャージの襟元を口でくわえ、物憂げな表情でジッパーを下ろす羽生選手。あの動画がツイッターに流れてきたとき、TLはちょっとしたパニックに陥っていました。壁ドンより顎クイより恐ろしい、“口ジッパー”です。「王子様」が面白おかしくキャラ化されてしまう昨今、あくまで自然に、そして臆面もなく、口ジッパーできてしまう羽生選手こそ真の王子様なのだと思います。