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 ある年の11月半ば過ぎ、根子マタギの佐藤弘二さんたちと秋グマ猟へと向かった。この年は稀にみるブナの実が豊作の年でクマの動きは非常に活発、あちこちから捕獲情報が伝わってくる。

「同じブナの下で3日連続で獲った人さもいるべ。はあ、またいる、またいるってなあ。もうずーっとブナ栗さ食べてるんだぁ」

 長い冬を前に山の生り物が豊作なのはクマにとって有難い状況だ。しかしそれを察知したマタギから逃れることは難しい。

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 氷点下近くまで冷え込んだ尾根筋から双眼鏡で彼方を見つめるふたり。うっすらと雪が積もった斜面にはブナの巨木、そしてその根元に黒い影。8倍の双眼鏡を渡されたがその黒い影がクマには見えない。しかし二人はクマだと確信を持った。そうなると行動は速い。林道からそのまま急斜面を降りるとクマの居たほうへと歩を進める。しかし尾根筋と違い森の中へ入り込むと位置関係が皆目分からなくなってしまう。土地勘のない私は当然のことだが、慣れたマタギたちも慎重に辺りを確認し自分たちの位置を見定めクマへ最善のアプローチを試みている。

丸まった黒い塊がすっと動くと…

 沢まで降りるといよいよ猟が始まる。二人しかいないのでいわゆる巻き狩りにはならないが、勢子役がクマを追うのは同じだ。ただブッパ(撃ち手)は一人なので、点と点を上手く結ばないと獲れないのである。

 ブッパの後を追いながら斜面を登る。かなり冷え込んでいるが体は熱い。山は何時も熱い。ここぞと定めたところでブッパは倒木の上に腰を下ろす。私はその数メートル下でカメラを手にぼーっと辺りを眺める。

「何時頃始まるのかな? 今日は獲れるのかな? まあ、獲れないかなやっぱり。何時頃山降りるのかな? 夜になるのは嫌だなあ……」

 基本的にマイナス思考なのでこんなことばかり考えている。その間もブッパは頭の中でシミュレーションを繰り返している。あそこら辺りから出てくるか、それともこっちか? それなら位置を変えたほうが対処しやすいのではないか。若干の位置修正を終えるとブッパは木になった。“木になる”とは森の木と一体化して獲物に気取られない状態を指す。一切の邪念を払いじっとその時を待つのである。対照的に邪念以外の何物もない私はぼーっと石の上に座り周りを眺めていた。

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 ???

 何かが視線の端をかすめた。ブッパの後方の稜線にゆっくり目をやると何かが動いている。丸まった黒い塊がすっと動くとそれはクマの姿になった。