「あの……クマ、クマがいますよ~」
「クマだ!!」
っと大声を出しては逃げられる。かといってカメラしか持たない私には手が出せない。ブッパまでは数メートル、背後を指さし口をパクパクして知らせるが彼は怪訝な顔をしているだけで気が付かない。
「何? わからねえからこっちさこ!」
仕方がない、ゆっくり近づいて小声で
「あの……クマ、クマがいますよ~」
「どさ!」
ブッパは私が指示したほうへ銃を向けるとすぐさま引き金を引く。辺りにこだまする銃声に耳が遠くなる。それと同時にクマの姿が見えなくなった。
「どした? 中あたったか?」
ブッパも私も転げ落ちるクマの姿が確認できなかった。中ったのか、それとも逃げたのか? 二人して辺りを見渡していると三段滝の一番下に黒い塊が見える。
「クマだ! よし、しょうぶ~っしょうぶ~っ!!」
これはクマを仕留めたマタギが大声で叫ぶ勝負声で、本当は無関係の人間が発してはいけない。しかしこの時はあまりに嬉しくて私も一緒に勝負声を上げながら斜面を駆け下りたのである。今思えば滑落しなくて本当によかった……。
こうして授かったツキノワグマは130kgの雄だった。一般的に捕獲されるツキノワグマの体重はおおよそ60~80kg程度だから大物といえるだろう。この大物を谷底から林道まで運び上げるのが大変である。近ければロープやワイヤーを使って直線的な引き上げも可能であるが余りに遠すぎる。結局、現場で解体をしてそれを小分けにして担ぎ上げるしか方法がない。冷え込む山中でマタギたちは黙々と手を動かし2時間程かけてツキノワグマを解体したのである。ぎっしりとクマ肉が詰め込まれたリュックの重さは30kg近い。それを背負うと林道へ向けて急斜面を登ることさらに2時間、私はマタギの荷物とカメラを抱えての登坂でギブアップ寸前まで追い込まれた。しかしマタギたちはクマ肉を一旦ジムニーに積み込むと再び谷底まで降りて行く。彼らが里に戻ったのは日がとっぷりと暮れてからだった。
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