木の上にクマがいるのは間違いなかった
何だろうとその物体を見るとクマの糞である。自分が休んでいる木の上にクマがいるのは間違いなかった。まるで存在を誇示するかのようなクマの脱糞、松橋さんは恐ろしくて木の上を見上げることができない。静かにリュックを背負うと忍び足でその場から離れたのである。
「いやあ、あれは怖かったなあ」
真夜中、一人で奥山まで入って行く豪胆な人でもやはりクマとの遭遇は怖いのだ。
・クマとの遭遇方法 その3 覗く
クマと確実に顔を合わせたいのなら(それも至近距離で)冬眠中の穴を覗くのが最も確実な方法だろう。古のマタギたちは穴の中へ入りクマを蹴りだしたとか、様々な方法でクマを追い出して撃とうとしたのである。前述した白山山麓の長田さんは初めてのクマ猟に行った時のことを話してくれた。
「先輩の猟師と一緒に山へ入ったんですよ。その時、一人で猟場を歩いていていたらクマ穴が見えたんです」
初めて入る猟場で見つけたクマ穴に長田さんは躊躇なく頭を突っ込んだ。むわっとした空気で一気にメガネが曇る。
「これは絶対にクマがおる思いましたね。それで先輩に知らせたんですが信用せんのですよ」
狩猟免許を取って初めての山入りだ。そんな新人に何も分かる訳がないと誰も相手にしない。しかし長田さんが諦めないので渋々現場へ来た先輩もクマの存在を確認すると仲間を集めたのである。
「穴の中のクマをどうやって出すか話をしとる最中に飛び出して来たんですわ」
クマ撃ちのベテランぞろい、その中に飛び出したクマには逃げ道などなかった。クマ穴を見つけたことは結果的に長田さんのお手柄だったが、いきなり穴へと体を突っ込んだことは先輩たちからかなり怒られたそうである。
冬眠中にクマが出産するのはクマ穴こそ最も安全な場所だと認識しているからだ。外敵に襲われる恐れがほとんどないから出産ができる訳であるが、そこにも人間はやってくる。
近年、クマの目撃情報が増えている。特に最近は道端や集落内をうろつく姿がドライブレコーダーやスマホに記録される。さらにはネットにアップされ余計にクマの出没感が増幅しているのではないか。クマが人を恐れなくなったから真昼間堂々と出てくといわれるが、個人的には個体差だと感じている。大胆な動きをするクマは少数派、とはいえ出合い頭で事故に繋がるのは避けられずクマ脅威論が高まるのだ。そんな状況下で、今まで禁猟だった地域でもクマを駆除し始めている。リスクでしかないクマはいないほうがいいという考え方なのだろう。欠席裁判で常に有罪を宣告されるクマにも言い分はあるだろうに……。
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