「突然のことで皆困っていますよ」という一言で疎遠に
「一太さん、後援会にひと声かけてくれないと、突然のことで皆困っていますよ」
彰一にとっては当たり前のことを、当たり前に伝えたつもりであったが、この日を境に幼馴染であり、父の代からの付き合いがあった二人が疎遠になっていく。一太は彰一を避けるようになる。
結局衆院選出馬は白紙と消えたが、その後、山本一太は群馬県知事へと転身する。一太がまず手を付けたのは、大澤前知事時代の行政を見直しする作業だった。その象徴が一太の肝いりでできた「県有施設のあり方見直し委員会」(2020年1月に設置)だった。見直しすべき、つまり“廃止”したい事業のひとつに、彰一が群馬県から直々に頼まれて引き受けた「ぐんまちゃん家」(『ぐんま総合情報センター』が正式名称)があった。
「『ぐんまちゃん家』は廃止の方向で進んでいると聞いて驚きました。引き受けた経緯もあるし、県のほうから適切な説明があると信じていたのですが……」
契約書にはもし委託事業を止める場合でも半年前には書面で通知をするということが明記されていた。父親の代から懇意にしている県庁の職員も多数いれば、一太だって知らぬ仲ではない。第一、「田プラ」は川場村という県内の自治体が出資する第三セクターであり、それを群馬県が蔑ろにするとは思えない。廃止はなかろう、仮にあったとしても悪いようにはされないはずだ。しかし、彰一は考えの甘さを後で思い知らされる。
「ぐんまちゃんの家」の廃止が決定し、副知事が「5000万円で解決を」と…
その後、知事に面会を求めたが秘書室からは多忙で時間が取れないという返事だけがもどってくる。前知事時代とはいえ、県側の要請を受けて1億円以上も投資をし、設備を整え、新たに9人もの社員を正式雇用している身としては、県側の対応は余りに冷たく映った。中途で止める場合でも大株主である川場村への説明責任があるだけに、彰一は県側の対応に不満を募らせた。
彰一の不満をよそに、2021年3月に「県有施設のあり方見直し委員会」で「ぐんまちゃん家」の廃止が正式に決定した。そして2022年5月。不可解な出来事が起きる。
5月23日、川場村にある「田プラ」に彰一との面談を求めてきた人物がいた。副知事の宇留賀敬一だった。宇留賀は2003年に経産省に入省したキャリア官僚で、一太に乞われる形で2019年に副知事として迎えられていた。知事の懐刀である宇留賀がわざわざ「田プラ」に彰一を訪ねてきたのだった。
突然の訪問を訝る彰一ら「田プラ」の幹部を前に、宇留賀は「今日は自分の独断で来た」と前置きし、こう言い放ったという。
「今回の件は5000万円でどうにかして欲しい」(#2に続く)