視聴者にはなかなか気づかれなさそうな工夫ではあるが、そう言われてみると、離婚後20年ものあいだ男性を知らずにきたヒロインが、17歳年下のエリート官僚と出会い、不倫の恋に燃え上がるというドラマの展開にふさわしい設定に思えてくる。ここでもわかりやすい偏ったイメージを排した、彼女なりの役のつくり方が垣間見える。
三谷幸喜に贈った言葉
『王様のレストラン』以後も、三谷幸喜の作品にはドラマだけでなく映画に舞台にと数多く出演し、ほぼ常連となっている。昨年も、NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』と、三谷作品にあいついで出演した。
『鎌倉殿の13人』で描かれた、伊豆の一豪族だった北条氏が鎌倉幕府で権勢を振るうまでの物語を、三谷は昔から書きたいと思い続けてきた。かつての『王様のレストラン』での鈴木の役名も三条政子と、北条政子にちなんだものである。
三谷が昨年暮れに菊池寛賞を受賞したとき、鈴木は『文藝春秋』誌面に寄せたお祝いの言葉のなかでこのことに触れ、《あの頃からずっとお書きになりたかった、北条義時とその周りの個性豊かな面々のお話を、『鎌倉殿の13人』で実現するなんて。とても感慨深いです》とつづった(同誌2022年12月号)。長らく付き合ってきた盟友ならではの祝福といえる。
「80歳ぐらいまで続ける気持ちで…」
三谷からは10年ほど前の対談で、このとき二人で取り組んでいたジャン・コクトー作の一人芝居『声』について、《八十歳ぐらいになって、まだやってるというのもいいじゃないですか》と言われ、彼女も《そのぐらい続ける気持ちで精力的に取り組みたい》と返していた(『文藝春秋』2014年1月号)。この作品にかぎらず、鈴木京香には俳優として息長く活動をしてほしい。
昨秋、吉阪隆正のヴィラ・クゥクゥの復元が実現したとき、その感想を問われて鈴木は《〈ヴィラ・クゥクゥ〉がまた花開く季節になったって感じですね。息を吹き返すというとちょっと大げさで、休眠していたのだけど、目を覚まして、2度目のお花を咲かせたみたい》と答えた(『Casa BRUTUS』2022年11月号)。鈴木もまた、いずれ必ずや復帰して、新たな花を咲かせてくれるものと信じたい。彼女自身もそれを期して療養を続けているのではないか。