歌手の今井美樹が、きょう4月14日、60歳の誕生日を迎えた。

 いまから5年前の対談では、今井がいま55歳だとさりげなく言ったところ対談相手の作家・林真理子を驚かせ、その反応を受けて《「55」という数字の響きがどこか硬質でユニセックスなのかな。女性というのを取っ払って、人として55歳になったという感じ。私、年を重ねていくことがいやだと思ったことは、一度もないんです》と語っていた(『週刊朝日』2018年6月1日号)。公式ホームページでは近況を伝えるのとあわせて自らの写真を載せることも多いが、その姿が自然で、年齢を重ねることを楽しんでいるような印象さえ受ける。

©文藝春秋

 その今井は、2012年にミュージシャンである夫の布袋寅泰と一人娘とともにイギリスのロンドンに渡って以来、日本とのあいだを往復しながら音楽活動を続けている。近年の活動はコンサートが中心で、テレビ出演など表立ったものは少ない。それでもいまなお存在感を放っている。

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『おもひでぽろぽろ』に出演

 昨年には、紅花(べにばな)をテーマにしたドキュメンタリー映画『紅花の守人 いのちを染める』(佐藤広一監督)でナレーションを務めた。この仕事を依頼されたとき、今井は「どうして私に?」と思ったが、すぐに、かつて主演したスタジオジブリ制作のアニメーション映画『おもひでぽろぽろ』(1991年)を思い出したという。

『おもひでぽろぽろ』で彼女が演じた27歳のOL・タエ子は、自分を見つめ直すために訪れた山形の農家で農作業を手伝うことになるが、そこでつくっていたのが紅花だった。今井はこの映画に監督の高畑勲たっての希望で主演し、そのキャラクターも彼女をモデルに造形されていただけに、タエ子は今井の分身のようにも思われた。

『おもひでぽろぽろ』(1991年)

 しかし、本人に言わせると、出演当時、タエ子とは同年代だったものの、あまり共感はできなかったという。昨年のインタビューでは、《映画の中で、タエ子ちゃんはいろいろなことで自分の過去になったことを振り返る。そこで自分は社会の[原文ママ]役立っているのかとか、自分に存在価値はあるのか、などいろいろと思い悩む。/それは当時のわたしにはあまりピンと来なかった。とにかく過去を振り返るよりも、前に進むことに一生懸命でしたから》と明かしている(「Yahoo!ニュース」2022年12月24日配信)。