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 そのあいだにさまざまな改修も加えられたが、鈴木はこの家を引き継ぐにあたり、現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之の主宰する建築設計事務所「新素材研究所」とも相談しながら、竣工当時の姿にできるかぎり戻すと決めた。こうして復元工事が行われ、昨秋ついに完成した。

 鈴木はこの家をプライベートなスペースとして使うのではなく、広く一般に公開することを前提として自らは管理人に徹するつもりだという。このことからも、このプロジェクトがもはや私的な趣味の域を超え、きわめて高い公共性を持ったものであるとはっきりとわかる。

©時事通信社

美術コレクターという一面も

 鈴木はまた美術コレクターという一面も持つ。29歳のときにサザビーズのオークションで20世紀前半のスイスの画家パウル・クレーの小品を落札してからというもの、自分の好きなアーティストの作品を家に持つ喜びを知ったという(『BRUTUS』2022年11月1日号)。

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 ヴィラ・クゥクゥにも自分の所有する書籍やインテリアとあわせて美術作品を運び込み、各所に配置した。もともと寝室だった2階には、ベッドの置かれていた場所のすぐ上の壁に、アメリカの美術作家シンディ・シャーマンが自らを被写体とした写真シリーズ「アンタイトルド・フィルム・スティル」の1枚が掛けられた(『Casa BRUTUS』2022年11月号)。このシリーズは、鈴木が初めて購入した同時代のアーティストの作品であり、集め続けてきたものだ。

©文藝春秋

 シャーマンは同シリーズのなかで、1950~60年代の大衆映画などのヒロインを連想させる人物に扮している。これについて、記号化したヒロインのイメージを自ら体現することで、ジェンダー(社会的・文化的な性差)の虚構性を提起したとも評される。

 鈴木は俳優としてこの作品から学ぶことも多いという。《ひとつのキャラクターを形にする時、“わかりやすい、偏ったイメージに陥っていないか”と、じっくりと作品と向き合ってみる。/演じる時、抱えたいくつかの記号から的確に選び取り、磨きをかけ、私という肉体を与えられたらと願う》と、かつてエッセイに書いていた(鈴木京香『丁寧に暮らすために。my favorites A to Z』講談社、2013年)。