昨年、巨額の未払い残業代を支払い、目下“働き方改革”を進めているヤマト運輸に、尼崎労働基準監督署から2本の是正勧告が出ていたことが、明らかになった。是正勧告の対象となったのは同社の尼崎武庫支店だ。
ドライバーが休憩を取れていなかった
一つは、昨年11月に出た是正勧告で、同年6月から12月にかけて休憩を取れていなかったというもので、労働基準法34条(休憩の取得)と37条(割増賃金の支払い)などに違反する。尼崎労基署が、同支店に務める40人以上のドライバーの勤怠記録を確認したところ、複数のドライバーが休憩を取れていない事実が浮上してきた。
ヤマト運輸はその是正勧告に対し、翌12月、労基署に是正改善報告書を提出。支店内に休憩室を作ったり、昼間の中間点呼を行うなどして、セールスドライバー(SD)が法律で定められた休憩時間を取れるようにする、と回答した。
今回、ヤマト運輸を実名申告で労基署に訴えたのは、同社に務めて20年となる岡田誠氏(仮名)。岡田氏は、ヤマトが是正改善報告書を出して以降も休憩が取れなかったとして、再度、12月に自分の勤務記録などを持って労基署に駆け込んだ。
つまり、労基署には改善した体を見せながらも、現場では、依然として休憩が取れていなかったのだ。
労基署は、同社の労基法違反を悪質とみなし、今年4月以降に、尼崎武庫支店だけでなく、ヤマト社内の上部組織である西大阪主管支店に調査対象を広げるつもりだ。今回の岡田氏の申告が契機となり、それまで支店単位だった調査対象を主管支店に広げて網をかけることが可能になった、という。
岡田氏はヤマトを労基署に告発した理由をこう語る。
「私は10年以上前から、ヤマトのサービス残業や違法な労働実態について社内で声を上げてきました。社内の労組や、目安箱といわれる内部通報制度を使って、労働現場の実態を改善してほしいと訴え続けてきました。
しかし、違法な労働実態が根本から変わったとはいいがたいのが実情です。社内の自浄効果には期待できませんでした。それを変えるには、労基署のような公的機関に介入してもらうしかない、と思ったのです」
ドライバーの勤務時間を勝手に改竄
岡田氏の労働運動を支援してきたブラック企業ユニオンの執行委員の青木耕太郎氏はこう話す。
「すでに神奈川県下のヤマト運輸の支店などで是正勧告が出ていることを勘案すると、4月以降の新たな調査が、地域の労働局の枠を超え、厚労省の案件となることもあると考えられます。電通の時のように、ヤマト運輸本社への立ち入り検査に発展する可能性もあり得ます」
岡田氏は、2回目に労基署を訪れた際、一昨年の勤怠リストも持ち込んだ。同氏が働く店の支店長が、ドライバーの勤務時間を、ドライバーの承諾なしに、勝手に改竄したと主張した。要するに、支店長がドライバーの労働時間、ひいては給与や残業手当などを勝手に引き剥がし、支店の利益に回していたということだ。期間は2016年4月から12月まで。その後、労基署が立ち入り検査をした結果、2018年1月31日付で、労基法24条(賃金の支払い)と34条、37条――に違反しているという理由で、2本目の是正勧告が出た。