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 2010年代に入ると総火演の人気はますます過熱した。2010年頃の総火演一般公開日のチケットの抽選倍率はおおよそ10倍程度だったが、2013年にはネット応募数が前年比44%増となった結果、当選倍率は21.1倍と一気に上がっている。背景には前年10月から始まったアニメ『ガールズ&パンツァー』、同年4月のドラマ『空飛ぶ広報室』といった戦車や自衛隊を扱った作品がヒットしたこともあるだろう。

開場後、席を確保しようとする一般客(2014年予行日撮影)

当選倍率は約28倍、異様な過熱ぶりに運営負荷の限界が…

 この頃には総火演チケットの“プラチナ化”が問題になった。ネットオークションでは高額で売買され、かつては自衛隊に縁のある方に配られていたチケットも、2010年代中盤にはある元将官でも入手に苦労したとうかがったことがある。最後の一般公開である2019年には、当選倍率は約27倍にまで達している。

 総火演の人気の高まりによって様々な問題が噴出した訳だが、そもそもの話をすれば、人気以前にイベントとしての総火演は大きな問題を抱えている。会場は東富士演習場の一角の野原であり、会場から最寄り駅の御殿場駅まで車で20分、最寄りのコンビニまで徒歩30分以上かかる。携帯の電波も良くなく、こんな場所に万単位で人が集まれば、たちまち通信困難になるような場所だった。

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2015年の総火演

 都市インフラから離れたおよそ大規模イベント向きでない場所で、予行日も含め何日もイベントを開催するのは陸上自衛隊にとって大きな負担であったのは想像に難くない。スタンドの設営といった作業から、食料や飲料を販売する民間業者、客を輸送するバス会社・タクシー業者等との調整、当日の交通整理、客の誘導、トイレにゴミの処理……。ただでさえ任務の多様化によって負荷が増している中、総火演の一般公開は陸上自衛隊にとって、許容できる負荷のレベルを超えたのかもしれない。

写真=石動竜仁