イノシシ、シカ、クマ……。害獣被害の報道が絶えない近年であるが、先日こんな報道があった。千葉県議会の超党派でつくる「有害鳥獣対策推進議員連盟」が、防衛相に次のような陳情をしたという。
陳情書では、自衛隊の退職者について「社会貢献への意識が高く、野外活動経験が豊富で、高度な技術を持つ」として、鳥獣被害防止活動への参加を促す広報活動の充実を求めた。また、現役隊員による鳥獣対策への「組織的な支援」も検討するよう求めている。
朝日新聞 イノシシなど害獣捕獲に自衛隊活用案 ベテラン猟師が感じた限界
https://digital.asahi.com/articles/ASR1S3QMNR1RUDCB00F.html
ここでいう「組織的な支援」とは、集団で猟を行う際に獲物を追い立てる勢子(せこ)役や、輸送支援などを期待しているようだ。自衛隊の小銃で害獣を駆除するわけではない。
「まるで戒厳令」1962年、北海道標津町で…
ところが、過去に害獣対策で自衛隊が出動し、武器が使われた事例もいくつか存在する。F-86戦闘機まで投入された北海道日高地方のトド駆除が有名だが、戦車まで出動し、小中学校の生徒が自衛隊車両で送迎され、自衛隊も駆除に駆り出された熊害事件もある。ところが、事態の切迫度に比して知名度が低い。自衛隊による害獣対策としてこのクマ駆除事案を取り上げたい。
〈戦車が二台、ものすごい土煙をあげて進み、そのあとに広瀬二郎一尉がひきいる第二十七普通科連隊の精鋭二十四人がつづいた。部隊は完全武装し、機動力はトラック四台、ジープ一台。本隊と結ぶ無線機は、ひっきりなしに鳴りつづけた。部隊の到着を、部落は不気味な静寂をもって迎えた。部落民は、まだ日のあるうちに畑仕事を切りあげ、しめきった家のなかで息を殺していた。
「まるで戒厳令だなあ」
広瀬一尉らは、クマの襲撃にそなえ、部落の守備隊として進駐してきたのである〉
これは北海道標津町の古多糠部落(集落)に自衛隊が進駐する様子を伝えた「週刊読売」(1962年11月4日号)の記事の一節である。
自衛隊の災害派遣報道は今も多いが、伝え方が明らかにそれとは異なり、まるで戦火に怯える村のような風情だ。