友人は私の前でボロボロと涙を流し…
友人から性被害の話を聞いたときの情景は、今でも思い出します。分別のついた歳の友人が私の前でボロボロと涙を流しながら、声を震わせる。彼の姿を見て、辛い話を蒸し返してしまい、申し訳ないと思いました。友人関係を利用しているのではないかという後ろめたさもあり、自問自答もしました。果たしてこれで良かったのか、と。
私も取材を受けた、今年3月のBBCのドキュメンタリー番組を見て驚いたことがあります。1つは性被害を受けた元ジュニアの男性が語った、ジャニー氏の性加害の手口が、私たちが取材した時とまったく同じパターンだったこと。もう1つは、判決確定後もジャニー氏が少年への性加害をやめていなかったことです。
理由は明白。一部のメディアしか裁判結果を報道せず、ジャニー氏が社会的制裁を受けることが無かったからです。ジュリー氏の説明によれば、判決後も彼は「加害を強く否定していた」。罪を罰せられることがなかったため、それを続けたことになります。2019年に亡くなった時も、性加害を報じたのは週刊文春や海外メディアだけでした。
日本のメディアは役割を放棄してしまっている
潮目が変わったのは、やはりカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会で会見をしてから。彼が実名・顔出しで被害を訴えたことで、腰の重い日本メディアも報じ出したのです。
最近、複数の海外メディアから取材を受けていますが、正直、彼らは日本のタレントをそこまでよく知らないと思います。にもかかわらず非常に大きな関心を寄せている。それは、「日本のメディアが、なぜこの問題を取り上げなかったのか」が、理解できないからです。
02年、米ボストン・グローブ紙がカトリック教会の神父による性的児童虐待を報じた際には、全米中のメディアが一斉に続きました。性加害は単なる個人のスキャンダルではなく、社会全体の問題だからです。彼らからすると権力者の性犯罪を報じない日本のメディアの異常性が際立って見える。「メディアの役割を放棄してしまっている」と。
今後メディアに求められるのは、これを解決すべき社会問題として報道し続けることです。この期に及んでジュリー氏は事実認定を避け、調査にあたっても第三者委員会の設置を見送りました。ジャニーズ事務所や日本社会を変えようと告白をしてくれた方々の勇気を、決して無駄にしてはなりません。