1ページ目から読む
2/3ページ目

中村に託されていたもう1つの“幻の作品”

 預かった歌詞は、愉快に酒を勧める人生の応援歌だった。

〈さぁさ皆さん 飲んで飲んで飲んで飲んで 飲んで歌って踊ろうじゃないか〉

 中村は自身でこの歌詞に節をつけ、オーケストラ演奏をバックにレコーディング。2016年にシングルのカップリング曲として発表した。

ADVERTISEMENT

 長らくテレビなどで披露されることはなかった。だが最近になって初めて、テレビで歌う機会に恵まれた。

「『お祭りというテーマで歌ってほしい』と依頼をいただいて、テレビ東京の番組で『酒飲め音頭』を歌ったんです。テレビでは初披露で。この収録があったのが、5月15日。まさかご本人の具合が悪いとも知らず、友人に『上岡さんにお伝えして』と頼んだんです」(中村)

最後の舞台 ©共同通信社

 収録の4日後に、上岡は亡くなったのだった。さらに――。中村に託されたのは『酒飲め音頭』だけではなかった。もう1つ、“幻の作品”があったのだ。

「今にして思うと、上岡さんが歌ってほしかったのは、もう1つのほうだったんじゃないかな……。じつは『土佐のいごっそう』というタイトルなんです」(中村)

 いごっそう。土佐弁で「反骨の人」を指す。中村によれば、歌詞の中では土佐男の気骨が表現されているのだという。

 上岡は単にルーツである高知を讃えたかったのか。実は上岡はこれまでも、自らが影響を受けたある人物を「いごっそう」として繰り返し紹介して来ていた。それが、人権派弁護士として知られた父の小林為太郎だ。

 上岡の父・為太郎は、高知県の土佐清水出身。赤貧洗うがごとき生活の中で、学問を修め京都大学を出て弁護士になった苦労人。労働者や学生、在日コリアンにかかわる事件を数多く担当した。戦後には日本共産党から選挙に出馬し落選したこともある。